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ただいま冷徹上司を調・教・中・!

伊吹美香

誰も知らない彼の秘密(8)

ちょうど階段を下りている途中で、真っ赤な車がコーポの前に止まった。

最近よくテレビなんかで見る車種だし、見た目から人気もあって高いんだろうということだけはわかる。

階段を下りきって運転席を覗けば。

社内では決して見ることのできない、私服姿の平嶋課長がハンドルを握っていた。

「くっそかっこいい……」

さすが人気ナンバーワン上司、車窓越しでもびっくりするほどかっこいいなんて反則だ。

助手席側に回り込み、ぺこりと頭を下げると、私は恐る恐る助手席のドアを開けた。

「おはよう」

軽く笑う平嶋課長の笑顔が眩しい。

5月の爽やかな朝にピッタリの笑顔。

こんなに絵になる男は嫌いだ。

「おはようございます。……あの、助手席に座ってもいいんですか?」

イケメンの助手は、美女が座るものだと相場は決まっている。

私なんかが足を踏み入れていいものなのだろうか。

「デートなのに後部座席に座らせるなんて有り得ないだろ?」

「じゃ、お邪魔します」

そろそろと乗り込むと、平嶋課長の姿を盗み見た。

カーキのパンツと黒のインナーシャツにライトベージュのシャツがマッチしていてオシャレだ。

髪型もワックスで無造作にあそばせている。

いつものイケメン度を、完全に振り切ってるじゃないか……。

「今日、どこに連れてってくれるんですか?」

シートベルトを締めながらそう聞くと、平嶋課長は待ってましたとばかりに笑った。

「俺の好きなところを先に連れていけって言ってだろ。アウトレットなんてどうだ?」

大型観覧車のある海の近くの大型アウトレットは私も大好きで、ことあるごとに足を運ぶ。

「文句なしです」

浮かれた声でにっこり笑うと、平嶋課長は満足そうな表情で車を発進させた。

「平嶋課長」

「ん?」

「でもどうしてアウトレットなんですか?」

私は平嶋課長に素朴な疑問を投げかけてみた。

私的にはなんの問題もないデートコースだが、平嶋課長は何を思ってそこに行こうと思ったのだろうか。

「なんでも揃ってるだろ?」

真っ直ぐ前を見たまま平嶋課長は答える。

「まぁ、そうですね」

「服でも靴でもアクセサリーでもバッグでも。場所を変えなくても全てが揃うから、こちらもありがたい」

なんだか話がよくわからない。

私は本気で買い物をするために来ている訳ではないのだが。

「平嶋課長、何か欲しいものでもあるんですか?」

「いや、久瀬のを買うんだろ?」

「私の?」

「好きなものを選べばいい。心配ないから」

当たり前のようにそう言った平嶋課長の表情に、なんの迷いもない。

……なるほど。

ここでもこの人はなにか勘違いをしているらしい。

「平嶋課長。ウインドーショッピングという言葉を知っていますか?」

「当たり前だろう?」

「デートの鉄板ですよ?」

私がそう言うと、ちょうど赤になった信号の前に車が止まる。

平嶋課長は私をまじまじと見つめ、「それは建前だろう?」と失礼なことを聞いてきた。

「なんだかんだ言って、何かは買わなきゃ愛情表現にはならないだろ?」

「……今までどんな女と付き合ってきたんですか」

深く溜め息をつくと、平嶋課長は自信満々だった顔を歪めた。

「あのですね。確かに気持ちのこもったプレゼントは嬉しいものですけど、はなからプレゼント目的でデートするわけじゃないですよ」

「そう……なのか?」

「いろんなものを楽しく見て回りましょうよ。それだけで十分楽しいんですから」

そう言って微笑むと、平嶋課長は少し拍子抜けしたような。

けれどなんだか安心したような。

そんな顔を見せてくれた。

信号が青に変わると、平嶋課長は私から視線を外して車を発進させた。

「他の人と同じ扱いをするところだった」

「どれだけ貢がされてんですか」

「いや……。女性はプレゼントに感激するって書いてあったし」

なんの本読んでたんだよ。

「買ってやれば機嫌いいし」

女に好き勝手泳がされて利用されまくるなんて。

「ほんとバカですね」

この私がまさか平嶋課長にバカという日が来るなんて、思ってもみなかった。

「すまん……」

素直にそう謝ってきた平嶋課長に、私は少しだけ心が震えた気がした。

「私は私ですからね。他の人とのことは忘れてください」

「はい」

私と平嶋課長はクスッと笑い合った。

誰とも比べて欲しくない。

そんな気持ちが大きくなった。

平嶋課長がどんな女とどんな恋愛をしてきたのかはわからない。

けれど今の話をする限り、プレゼントを貰うのは当然だと思う女性が多かったのだろうと想像できる。

私は絶対にそんな女性と一緒の括りにされたくない。

たとえ仮であったとしても、歴代で一番いい彼女だと思ってもらいたいんだ。

不思議とそんな気持ちになって、私は平嶋課長の横顔を見つめた。

イケメンというだけで苦手意識があった人だけど、今では少しだけ可愛らしいと思うなんて。

平嶋課長の素顔を知れば知るほど、私の中の固定観念が崩れていく。

この人はいったいどんな素顔を隠し持っているのだろうか。

始まったばかりのこの関係が楽しくなり始めた私は、今私だけに見せてくれている本当の顔に心が緩むのを感じていた。

平嶋課長は今まで、どんなデートをしてきたのだろう。

本当に疑問に思う。

着いて早々に逸れそうになるし、私が入ったお店に一緒に入ってくることもない。

各自、自分の興味のある店を見つければ、別行動でもいいと言ってくる。

これで何が楽しいっていうんだろう。

そういう時こそストレートに聞けるのが、この関係のいい所でもある。

普段なら我慢して不満を溜め込むことも、私達ならば即その場で解決できるんだ。

「どうして私と一緒にショップに入ってくれないんですか?」

私の質問に即答するように口を開いたが、一度飲み込んで言葉を探す。

「興味のない顔でついてこられても迷惑だろ?」

「そりゃ興味ない顔されると迷惑と言うより頭にきます」

「どっちがいいかと聞かれても、結局は自分で決めてるじゃないか。それと違うものを選択したら……怒る」

「なるほど……」

あるあるだな……。

今まで何度も女の逆鱗に触れてきただけのことはある。

「でもそれって、平嶋課長が相手の女性のことを真剣に考えてないからじゃないですか?」

「いや、俺は前も言った通り、女性と適当に付き合ったことはないぞ」

「そうじゃなくて」

平嶋課長の誠実不誠実を指摘しているわけではないのだ。

「結局、相手の着ている服や持ち物に興味がないから、選択を迫られても的確に答えられないんでしょ?」

図星を突かれたのだろう。

平嶋課長はぐっと言葉に詰まって眉をしかめた。

「そういうのがわかるから女性は怒るんですよ。彼女自身だけではなくて、もっと彼女を取り巻くいろんなことにも興味を示してください。女はどうな小さなことにだって興味を持ってもらいたいんですから」

女はデートのために前々からいろんなことを準備する。

自分の体型や顔色、髪型によってファッションを選び抜く。

だからこそ彼には一緒に自分のことをもっと考えてほしい。

男性にとっては面倒くさいことかもしれないけれど、それは女の性と言えるだろう。

「だからこそ、女は彼のことも知りたいんですよ?別行動なんて以ての外です」

私はニコリと微笑んだ。


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