コピー&ペーストで成り上がる! 底辺講師の異世界英雄譚

猫太郎

第02話 ここは地獄の一丁目

 目を覚ますと、そこは地獄——みたいな場所だった。
 俺が寝ていたのは、川の中洲のような小島だった。しかし、周囲を流れていくのは水ではなく、灼熱したマグマ。まるで血のようだった。
 空はマグマと同じ色に染まり、どんよりとした黒雲が浮いている。
 ここはどこだ? さっきまで自分の研究室にいたはずなのに、どうなってるんだ?

「やっと起きた?」

 不意に、背後から声がした。透き通るような女の声だった。
 慌てて振り向くと、中洲の中心部にぽつんと置かれた玉座に、異様な風体の女が腰掛けていた。

 何かもが異様だった。
 玉座は動物の骨を無造作に組み合わせたもので、腰掛けの部分には毛皮が敷かれている。
 そこに裸の女が腰掛けていた。
 全裸ではないが、均整の取れた裸体にまとっているものは、金のブレスレットとアンクレット、豪奢なネックレス、そしてボロボロになった真紅のマントだけ。
 唇も、髪も、マントと同じ血の色をしていた。
 頭の左右を剃り込み、艶やかな長い髪を背中に流している。
 
 爬虫類のような金色の瞳が、俺の顔をじろりと見た。

「冴えない男であるな」

 そう言うと、裸の女は何がおかしいのか、クックッと喉を鳴らして笑った。

「きみは、誰だ」

 異常な事態に驚きながら、俺はなんとか口を開いた。喉の奥が渇く。

「あたしは〈復讐の女神アルザード〉。パルネリア世界の地獄に住まう者。灼熱の孤島の女主人にして、異界の橋の門番。世のことわりを超える者」

「パルネリア? 復讐の女神?」

「お前に分かりやすい言い方をするなら、〈異世界の廃品回収業者〉ってとこかしら」

 廃品回収? ますます分からなくなってきた。
 女は俺の困惑を無視して、歌うように言葉を紡ぐ。

「張本エイジ。お前は自分のいた世界から、〈不要物〉とみなされた! 〈廃棄〉された! だから、あたしがいただく。あなたの身体と魂を回収して、あたしの世界パルネリアのために利用する」

「ちょっと待ってくれ! 何を言ってるんだ!」

 俺の制止を聞かず、自称女神は金の短杖を掲げた。
 赤い唇がニィッと弧を描く。杖の先端から、目がくらむほどの光があふれる!

「〈廃棄物〉張本エイジ、お前に新たな力を授けよう。お前が心底憎んだものが、お前の明日を示すであろう。憎しみを力に変えよ。世界を救え!」

 そして、光が爆発した。

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