〜アレスの楔〜

うひひ

始まりの日

1350年・・・。1000年戦争の終結から350年が経過した。1000年戦争とは、大国ルーマと、小国連合であるルクセンが中心となって行った戦争で、およそ300年間争っていたとも言われている。1000年戦争は激闘の末、大国ルーマの勝利で終わりを迎えた。

 ここはグンシ王国。グンシ王国は、1000年戦争時、大国ルーマ陣営に付き、勝利の恩恵を受けた国である。1000年戦争が終結後、グンシ王国は、弱ったルーマに対して挙兵し、ルーマを滅したことで、強国として世界に知れ渡るようになる。ルーマを滅し、莫大な富を得たグンシ王国は、その金のほとんどを軍事力強化にあて、侵略戦争を繰り返した。その結果、この大陸にはグンシ王国とに逆らう勢力は消滅し、グンシ王国が大陸の覇権を握るようになる。そして、近年、グンシ王国は、海を超える貿易をするべく、商業に力を入れるようになっていった。その中でも、「ラーキ」と言う商業都市は、商業人であれば誰もが知っている、世界でも数少ない巨大な商業都市である。

アレス「ふう。ちょっとひとやすみ・・・。」

少年の名はアレス。彼の家業は羊飼で、羊を売るため、ラーキに出入りしている。

ラス「よお小僧。どんな調子だ?」

彼の名前はラス。アレスがラーキに出入りすると必ずと言っても良いほど出会う、小汚い格好した髭の長い60代くらいの男である。

アレス「ボチボチだよ。」

少しめんどくさそうに言葉を返すアレス。

ラス「そうか。そういや親父は元気してるか?」

ラスは、不機嫌な様子に構うことなく、質問を続ける。

アレス「はいはい。元気ですよ。」

ラス「そういやお前・・・」

とラスが言いかけたその時、アレスが声を荒げた。

アレス「あのさあラス!お前みたいな汚い格好の奴と話してると客が寄ってこないんだよ!!金輪際関わらないでもらえるかなあ!」

アレスは、そう言葉を投げかけると立ち上がり、売り物の羊と一緒に歩き始める。



数時間後・・・



アレス「さて。今日も売り切ったことだし、家族にお土産でも買って帰ろうか。」

今日の稼ぎを計算しながら独り言を呟くアレス。

しかし、この後、人生の歯車を狂わせる出来事がアレスの身に降りかかる。

アレス「何がいいかなあ・・・?」

アレスは、家族のお土産を買うため、商店街をうろついていた。その時、キレイに輝く宝石のようなものが、アレスの目に写った。それは金平糖のような砂糖菓子だった。

アレス「これ3つください!」

砂糖菓子を3つ買ったアレスは、いつものように街の出入り口の方に歩いていた。しかし、途中の道で不審な男2人が裏路地に入っていくのが視界に入る。

アレス「(ん・・・?もしかして、リーフの密売かな?)」

 現在、グンシ王国では、リーフという麻薬が蔓延しており、治安悪化の要因となっている。それに怒った国王が、リーフの取締りを強化実施し、一般人にも協力を呼びかけている。さらに、麻薬検挙に貢献した国民には、国から謝礼が支払われる制度となっており、アレスは謝礼目的で男たちの跡をつけたのであった。しばらく進むと、男たちは立ち止まり、話をし始めた。アレスは、物陰に隠れて、聞き耳を立てる。

男たちの会話はこうだ。

男A「お前、ここ最近シシ国の動きが活発になってきてるって知ってるか?」
男B「いや、知らねえな。シシ国って言えば、1000年戦争で一番最初に落とされた国だろう?」
男A「ああ!そうなんだよ!どうやら、ここ最近シシ国の偉いさんたちの間で、グンシ王国侵略を企ててるっていう話が出てるみたいなんだよ!」
男B「何!?馬鹿な!資金力でも軍事力でも上回ってるグンシ王国が負けるわけないだろう」
男A「これが案外嘘とも言えねえんだぜ。人づてに聞いた話だが、あのジャッカルが関わってるっていう噂だ。」
男B「ジャッカル!?ジャッカルってあの戦争ビジネスで大儲けしてるって言われてる集団のことか!?」
男A「そうそう!グンシ王国は何かと生活しづれえ。身分も決まっちまってるしな。だから近々シシ国に亡命しようかと考えていてな。そこでお前を誘いたいっていうのが俺の魂胆ってわけだ。」
男B「なるほど。それで、この話俺以外にはしたか?」
男A「いや、まだしてねえ。」
男B「そうか・・・。なら・・・。









死ね。」

男A「え?」

ドサっ。

フードを被った男がそう言った瞬間、男Aは首元を切り裂かれていた。膝から崩れ落ちる男。見事に声帯をかき切られており、うめき声すらあげられない状態だ。男はしばらくの間は悶えていたが、次第に動かなくなった。死亡を確認するため、フードの男が男Aの脈を測っている。するとその時・・・。

アレス「ハッ!」

あまりに現実離れした光景に、つい声を漏らしてしまったアレス。フードの男はその声を聞き、咄嗟に声のした方向を振り向く。フードの男と目が合う。その時、アレスは底しれぬ恐怖心を抱いた。徐々に立ち上がる商人B。

フードの男「ガキに見られるとは。とんだヘマしちまったなあ。」

そう吐き捨てると、男はアレスの方に向かってきた。一方のアレスは恐怖で硬直してしまい動けない。徐々に距離を詰めてくるフードの男。

フードの男「お前もキレイに喉元切り裂いてやるよ・・・!」

フードの男が短剣を振りかざす。アレスは恐怖で涙しか出すことができない。

目を瞑り、死を覚悟した次の瞬間・・・!



キーーーーーーーーンッッ!!!



なにか金属がぶつかり合ったかのような音が鳴り響く。

ゆっくり目を開けるアレス。

そこにあったのは剣を持つラスの姿だった。

アレス「ラス・・・?」

ラス「おうクソガキ。」

アレス「なんでここに・・・。」

ラス「いろいろ事情ってもんがあるんだよ!そんなことはどうでもいいから、逃げろクソガキ!」

その言葉を聞いたアレスは恐怖での身体硬直が解け、一目散に走り出す。
逃げたアレスを横目で確認した後、フードの男に視線を向ける。
ラス「顔を見せやがれ・・・!」

ドスの効いた太い声が、緊張状態を加速させる。

フードの男「ラス・・・?お前の名はビッグイーン・アルバーツのはずじゃ・・・」

ラス「・・・。(あのクソガキ・・・。俺のプライベートネームをばらしやがって)」

フードの男「まさか国王の護衛隊長がお出ましとはな!」

懐から短剣を取り出し、ラスに襲いかかるフードの男。それに応じるラス。その空間は、甲高い金属音で支配されている。

フードの男「お偉いさんに目を付けられて光栄だよ!アルバーツ殿!」

ラス「その名は捨てた!その減らず口が2度ときけないようにしてやるわい!!」

フードの男「あんたが出てくるってことは、俺の名はそっちでも有名って認識でよろしいかな?」

ラス「自惚れるな・・・!貴様など・・・!」



カーーーンッッッッ!



フードの男の短剣は弾かれ、宙を舞い、地面に刺さった。

商人「チッ!さすがに敵わねえか。」

ラス「貴様、バモス・オスクリダーだな?」

バモス「ご名答。あばよ老いぼれ!!!」

そう吐き捨てると、バモスは懐から煙幕を取り出し、あたりに撒き散らした。

ラス「くっっっ。やられた」

ラスは、煙を吸い込まないように、一定の距離を保ちながらも、煙の中を凝視していた。しかし、煙幕が消えた時には、もうバモスの姿はなかった・・・。

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