そして、魔王は蘇った~織田信長2030~

内野俊也(Toshiya Uchino)

暴力⑤

「警察だ!全員動くな!凶器準備集合罪、不法侵入及び暴行罪で逮捕する!!」
署長自らの号令で、迅速に動く屈強な警官隊。
「か、か勘弁してください、今捕まったら…」
「すんません学校には…」
「み、みりゃ分かるっしょ!全部あの黒田ってガキが…。」
「つーか谷岡ってヤクザに…」
なんとも未練がましきことよ。
「うるせえ、とっとと乗れ!!」
「オメーラ口ばっかだな!」
次々と、捕らえるべき者を捕らえ、パトカーは走り去っていく。
そして、こちらに歩み寄る、所轄警察署署長。
深々と一礼。
中途で疾風の巨馬ぶりに驚きつつも…。
「この度は、大切な娘をお助けくださいまして、御礼の言葉も無く…。」
「こちらこそ、署長自ら恐縮にて…
それに礼ならば、これにある高橋亮太なる者に。」
互いに礼を交わし合う両名。
「さて…署長殿、この信長の処遇、如何なさる?」
署長は答えず、昏倒している谷岡の元に歩み寄る。
そして転がっている自動小銃を拾い上げる。
「指定暴力団の幹部が、容易に大量殺人も可能なこのような銃器を所持発砲。しかも未成年に武装させて学校を大挙襲撃…。
この一種悪質な大規模テロとも呼べる行為に関しては、事実上あらゆる抵抗が正当防衛とみなされましょう。
まぁ事案が事案だけに『本店』も当然介入してきましょうが、彼らの大半も、そして我が県警も貴方様の味方でございます故。まぁ形式的な聴取等はありましょうが。」
「お心遣い痛み入る…」
令和流に握手を交わす。
そして署長は…。校長室へ向かう。

入れ替わりにずいずいと歩み寄る浅黒い巨躯。
「いやーマジぱねえわ。こんだけの人数を…谷岡とかガチの銃だったし。黒田…くん?いや信長さんだっけ?やっぱ凄いんすねぇ。
なんなら俺も?力になってやってもいいぜ?」
ぐわばちん!
ワシが田所の右頰に、平手を浴びせたのである。
逆方向に倒れかけた田所の左頬にさらに一撃。そして反転して右に…。
血飛沫が飛び、周囲は息を飲む。
計7往復。
ようやく地べたに這うことを「許された」田所。
鮮血と歯の破片を苦悶とともに繰り返し吐き出す。
「…何故の折檻か、判らぬ程うつけではあるまい。」
「は…はい。き…ら、飛鳥…綺羅さんには、た、たいへん、申し訳…ないことを。」
「今更直接詫びよとは申さん。というよりうぬと会うだけで、綺羅当人の心の傷を拡げるだけじゃ。
如何に粗野な世に生きてきたワシでもそのくらいは分かる。」
「…。」
お前も俺の言った事聞いてねーじゃねえか。というハルからの視線を感じる。しかし、ここは流す。
「望み通り召抱えてはやる。しかし最低限の衣食住のみじゃ。
あとの俸禄…報酬はうぬが死ぬまで綺羅にワシを介して償いとして払うと思えい。そしてうぬは率先して死地に赴く。よいな。」
「は…はい…かしこ…まり…ました…信長…さま。」
田所は血を垂れ流しつつ額ずく。


警察による実況見分がひと段落し、ワシは馬術部の馬場で疾風と戯れつつ、時間を潰す。

そして放課後、剣道部道場。
顧問に頼み込み、(小銭を払い)道場を開けて貰う。
道場にはワシと…
もう一人は、高橋亮太。
密室に男2人。なにも起こらない筈はなく…。

「連山流 炎舞翔連!」
「紫電流 拾弍の型 鍾馗連突!!」
木刀とはいえ、音速級の絶技の応酬。
稽古とは言え一歩誤れば死…。
それを30分も続けたであろうか。
ならばこれは…
「飛燕音破!!」
ガラスが割れ、のみならず周囲の壁にも亀裂…。
が…「連山流 覇出洲紅蓮・弍式!!」
相殺!!とまではいかず、亮太の左腕には切り傷。
ワシも右手肩口に浅い切り傷。
そして砕け散る互いの木刀。
「ここまで…」
「で、ありますな。」
互いに脱ぐような防具は着けていない。
礼を交わし正座して向かい合う。
「連山流とは素晴らしき武。令和にこれ程の純度で残っていたとは。恐れ入った。
いやはや、仕込むつもりが…こちらが教えを乞わねばならんな!はははっ!」
「いえいえ、お館様の一太刀一太刀が、我が教訓となりました。貴重なる時間を…。」
「ははっ、それは…まぁだがしかし確かに、『これさえ仕込めば』という、『基本にして極意。』が、紫電流にはある。
今後はそれをお主や七瀬に仕込んで参りたい。」
「はっ、ありがたき倖せ。
…ところで、お館様に捧げたきものが…」
「ほう…」
亮太はゆっくりと上の道着を脱ぎ…。
うおおおっ。

蘭丸…?


研ぎ澄まされた、美しき筋骨。
ワシは無意識に身体を寄せる…




東京都内 信濃町

ここに中近世の南蛮王宮もかくやと思わせる、豪奢かつ巨大な建造物が在る。
ここが、日本最大の、信者数1000万とも呼ばれるキリスト教系マンモス新興宗教団体、
「草原教会」総本部であった。

「ふむ。一人銃火器持った筋者が居たとは言え、やはり餓鬼が3桁揃ったところでどうなる相手でもなかったか。
逆に動画が広まり、奴の名声を益々高める事になるとはな。」
90を越えた老人の、腹から呪詛のように響く声。
「申し訳もなく…」
頭を垂れるのは奈路海組会長、磯野圭司であった。
「次は本チャンの連中数百名。無論完全武装させ確実に消しましょうぞ。」
「フン…当然確実にやってもらわんとな。
キサマらに使用者責任が及ばぬよう、警視庁に釘を刺すのも骨が折れるのだぞ、最近は…あの信長気取りの小僧のせいで…
次はないと思え!」
「ぎょ、御意、大教皇様!」
最敬礼すると、奈路海組会長は退出する。

「さて山岡よ、アレとは別にヤツの逮捕を考えねばならんの」
「ハッ…共産あたりが難色示しておりましたが、数日中には人権公安を動かせましょう」

国家公安委員長 光の党副代表山岡権蔵はそう答える。
「くれぐれもしくじるな。我らにとっての悪魔を屠る機はここしかない。わかっておろうな。」
「御意ッ!!」
山岡もまた、磯野同様に退出する。
入れ替わりに秘書官が入って来た。
「大教皇様。」
「うむ。くく…通せ。」
30歳少し過ぎの女性が、緊張と恐怖と恥辱に震えながら入って来た。
「くく、よいぞよいぞ。取り敢えずはそこのソファーに…」
「は…い…。こ、光栄です。大教皇様…」
大教皇、こと溜池犬作 草原教会終身名誉会長の下半身は、齢90越えでありながら思春期の少年の様に漲っていた。
iPS細胞による再生医療の賜物である。
女性は末端信者、夫のある身。
「人妻を手篭めにする」という行為に、溜池は若い頃から異様に執着していた…






その頃、パァホテルのワシの私室。
「信様、すっかり上達したじゃないですか。
あたしに勝つなんて。」
「かつて姉であった」お市はワシに身体を寄せ、共にマラオカートに興じていた。
「うむ、まぁネットや書も良いが、最近はゲームも良きかなと思うてな。色々とやっておる。
それもまたある種の鍛錬、学びと思うてな。」
「流石ですね、信様。」
時折見せる市の瞳は、独特の潤み。
それがまた、たまらぬ。
ゲームがひと段落する。
「お疲れ…ですか?」
「ふむ、流石にな。」
飛燕音破を放ったのがとくにこたえた。
以前よりは黒田泰年の五体も鍛えられたとはいえ。
「どうか、こちらでお癒しを。」
巨大な膨らみが目の前に。
ワシは甘えることとした。










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