そして、魔王は蘇った~織田信長2030~

内野俊也(Toshiya Uchino)

暴力①

柔道部騒動から10日後。
名古屋栄、某所クラブの地下フロア。
そこの上座的位置に、明らかに一般市民では無き男がふんぞりかえっていた。
「ん〜間違えたかな?どー数えても今月の上がり893万しかねぇぞテメーラ!?」
奈路海(なろう)組 若頭補佐、谷岡。
正面には数十名の、いわゆる半グレの若者達が、全員正座させられていた。
「し、しかしかし、JS、JC、JKのウリの方はむしろ先月より上がってるんすけど…」
そう反論した1人の青年を、谷岡はメリケンサック付きの拳で殴る。
「おいゴラァ!?肝心のアイスの上がりがガタ落ちじゃねーか!?」
「ショッ、しょれは…」
折れた歯と血を口元から垂れ流す青年。
周囲は凍りつく。
「会長(オヤジ)から、東海方面の上がりに喝入れて来いって言われて来て見りゃコレモンよ…
大体テメーラ、狩りに出てんのかよ狩りによ!
街自体にそもそも出てんのかって聞いてんだ!!」
「そ、それが…、あの素手喧嘩(ステゴロ)最強の田所さんが…「野獣先輩」と恐れられて、この街シメてたあの人が…信長とか吹いてるガキにワンパンで倒されたって聞いて…もしそのガキ…バケモンが正義マンヅラしてこの街に出てきたらって考えたら…みんな…」
そう弁明した別の青年の腿に、ぐさりと突き立てられた。
谷岡のアイスピックが。
「あきゃあああああん!?」
さらに青ざめる配下の半グレ達に、谷岡は吠えた。
「なあにがステゴロだ!なにが信長だ!
後ろから刺そうが!拳銃(チャカ)使おうがっ!相手の身内の柄抑えようが!
後で懲役喰らおうが!
ナニをやろうが最後に勝つのが極道(ワル)ってもんだろうが!?」
半グレ達に電撃が走る。
「おう3日だぞ3日。3日でそのふざけたガキを半殺しにして、こっちの枝の事務所に連れて来い。始末は後でゆっくり考える。
家族ごとだ!ワアッたか!」
お、オス!!!

同日深夜。黒田邸へ、60名以上の手勢がバイクや車に分乗し向かう。
「これだけいりゃあ、バケモンのガキも秒でやれるだろ。」
「なんでも結構アレな姉貴がいるってハナシだぜ!」
「おーいいじゃねーか。じっくり楽しんでから谷岡さんに差し出しゃあ!」
そんな能天気な会話を交わしつつ、半グレ達は遂に黒田邸に到着。
「ここで間違いねんだな?」
リーダー格の永田。
「おう、画像付きだったから間違いねっす。」
「寝込んでンナァおい。よしじゃあカチ込んでやるぜ。」
「ウオオオオオッス!!」
門戸と玄関扉を悠々ブチ破り、家屋内へ雪崩れ込む!!

??
????!
「誰もい、ないです。」
「うせやろ?」
「クッソ家族も…全員が…」
「だああああ!金目のもんも無え!!」

あああああああクソガッ!!!
永田はそう吠えると、何故か黒田家の冷凍庫を開け放ち、猛然とアイスチョコレートバーをしゃぶりだした。ジュッポジュッポと…。


一方名古屋駅近傍ホテル「パァホテルプレミアム」
その最上階スイートルーム。
「サルか、そうか、黒田家に奴らが…2.3日遅ければ危うかったわ。一連の諜報大儀なり。
褒美…報酬は振り込む故。お主の配下にも無論…よい、それだけの励みを致したのじゃ、貰えるものは貰っておけい!はははッ。それより、配下共々、今は休んでおけい。」
ワシはスマホを切る。
そして、「父と姉」に向き直る。
「お陰で助かったが.…なんかこう腰が落ち着かんなー、のぶ…泰年、何もこんな豪勢でなくても…」
「いーじゃん快適で…てかお金どうしたの?泰年。」
「幸いにも、このパァホテルの社長がワシに並々ならぬ思い入れをしてくれての。
すべて、ルームサービスその他含め、銭の気遣い無用と申されておる。しかも当座の金子として1000万も出して下された。
さらにはいずれそれを遥かに上回るYouTubeの収益も入る故…。
親父殿にあられては必ずしも今の商いに固執なさることもなかろう。なんならば退職なされ、ゆるりと過ごされるも良かろう。
姉上も、数日は外出は大学も含め、お控え頂きたい。
その間に、なるべく当の無頼者どもを片付ける故…。
それよりも、結局親父殿と姉上に類を及ぼし、住み慣れた家を捨てさせてしまい、申し訳なき事。」
「あ、ああ…。まぁ…それは…。」
「トータルでは良かったじゃん。お父さんもあんなブラックな仕事から解放されるし。
じゃああたし、シャワー浴びて寝るね。」
姉君はそう言って、自分の個室スペースへ入っていく。
「泰年…いや、信長…様。」
「うむ?」
「大丈夫…なのですか?このような危ない橋を渡り続けて…」
「案じられぬな親父殿。ワシがこの世に転生したるには、なにがしかの意味があるはず。
本来天命なぞ信じぬが、恐らくはワシはなにがしかの事を成就致すまでは、死にはせぬ身。
そうなっておるのであろう。それより、親父殿にあられてはゆるりと積年の心身の疲れ、癒されるが良かろう…」
ワシはそう言い残し、扉…ドアを開け、スイートを出て、二つ隣の自身の部屋へ向かった。


自室のベッドに横たわり、しばし思案を巡らす。
恐らくは明日にでも、彼奴らは学校の方に押し寄せて来よう。さて如何様に料理したものか。

ん?
ノックの音。
覗き窓には…姉君か。
ガウンとやらいう羽織りもの一枚。
あの巨大な膨らみも半分近く露わに。
鍵を開ける。
如何なされた、と言いかけて、ワシは息を呑んだ。
初めて目にする、姉の化粧無き貌。
「…市…お市ではないかッ!?」
「は?何言って…?あたしのすっぴん見るの初めてじゃないでしょ?てかゲーム…あんたのスイ○チでマラオカートやろうと思って来たんですけど。」
「否、そなたは市じゃ。今後はあんな化粧なぞせぬか、せめて慎まやかなものにせい。」
「…ちょっと、いい加減怒るよ!?あのメイクは彼氏が気に入って…。」
「そんなものは捨てい!お主はワシの従姉妹、そして永遠の愛妾、市じゃ。」
そう言ってワシは姉…否お市に縋り付く。
「ちょっ…なに…考えてんの…今更だけどおかしいんじゃね? あたしとあんたは姉と弟…。」
もはやその様な至極当たり前の言葉も、ワシの耳には届かなかった。
市、市!
唇を押し当て、母性の象徴の大いなる膨らみを…

此度は最早離さぬ。








つごう5度、「かつて姉であったもの」の中に放った翌朝…。

「では、行って参る。」

「行ってらっしゃいませ、信様」
その瞳は潤み、陶然としていた。





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