そして、魔王は蘇った~織田信長2030~

内野俊也(Toshiya Uchino)

反響

「おい、起きろノブ!」
「う…うむ?」
「早くベッドからでロッテ!」
ハルはワシの腕を引っ張る。
存外なる膂力…
「おい待てい、せめて褌…いやパンツくらい」
「パンツなんか必要ねえんだよ!
…いや、お前は要るか。とにかく早く」
取り敢えず履くものを履き、PC画面を覗き込む。
これはワシの昨夜のアレであるな。
それで…?
見ろよ見ろよと指し示された数字。
ん12…億?
「どういうことじゃ?まさかこれだけの数の世界の民草が、ワシの動画を見たということか?」
「そのまさかだよ!一夜にしてお前は、世界レヴェルの有名人ってことだよ!
一応英語字幕つけといてよかったぜー。
しかし嬉し過ぎる誤算だぜ。ワンチャン1億いければいいなくらいしか思ってなかったのに…」
ほう、それほどにか、確かにコメント欄とやらを見ると、異国の文字の方が日本のそれより遥かに多い。
しばしそれを読み込むハル。
そうこうしてるうちに姉上から朝の膳の呼び出しがかかる。
「おはようございます。すんませんゴチになりまーす。」
「ハル君おはよー。こんなものしか出せなくてごめんねー。」
…という割にはいつもより豪勢な気がするが。
「親父殿、姉上、おはよう。…ん?如何なされた親父殿。」
親父殿は口を半ばあんぐりさせたまま、テレビニュースの画面を指さす。
これは…

「【速報】謎の青年、自称『織田信長』の演説動画、全世界で空前の反響。」

「…何これ…昨日二人でやってたのってこれ?」
「泰年、これはさすがにまずくないか?露骨に皆殺しとかはまずいだろ。具体的な個人名を言っていないとは言え…。
今すぐ動画を削除しなさい。多分まだ完全に身元は割れてないだろうし。」
「いや、お父さん、もうどの道割れてる可能性がありますよ。ノ…ヤスを知ってる学校の奴があれ見て深夜のうちにネットでばらまいてる可能性を考えれば…」
ハルの言葉に、頭を抱える黒田家の当主。
「親父殿、姉上、類を及ぼすことがあらば申し訳なき事。しかしワシは織田信長として、この国と世界の静謐の為に…令和、21世紀の基準においてはいささか過激に過ぎると思えようとも…どうしてもここで発信せねばならなんだのだ。許せ。両名の身は極力護る故。」
仮にこの家が特定され、誰かが押しかけてこようが、どの道父姉2人は終日家にはいない。しかも先刻ワシは椎名(サル)に、「腕の立つ十名前後と共に学校休んで我が家を警護すべし。」と命じておる。
そして聞いている範囲では、例えば姉君はSNSで顔出し、実名出し等はしていない。
本日中は、少なくとも黒田家に関して懸念はあるまい。
「ま、まあ以後はネット上でのあれこれは気をつけなさい。」
そう言い残して、親父殿は出勤していった。
姉上のほうは「2限から」とやらの事由で、すこし遅い出立で良いらしい。
ワシとハルは、玄関を出る。丁度そのタイミングで、サル達が来た。
「お館様、後は御安心召されよ。」
「押忍!!」とサルの配下?達
「ご苦労。励むがよい。但し姉を無駄に怖がらせるな。一応この後LINEはしておくが。後凶器類は家の庭にでも隠すべし。」
「かしこまり!」
ワシとハルは学校へ向かう。
「ところで…ハルよ。例の動画のコメント欄は如何なる塩梅か。」
「そーだな、まぁ3割はお前を誇大妄想のキ○○イ扱い。
残り7割は轟々たる非難と、逆にお前を大絶賛…。の半々ってとこかね。」
「ふ…まあそんなもんだて。いずれにせよ悪名は無名に勝る。」
「流石だな。しかしこの分だと、あっち方面の非難がまず学校の方に…」
「ふむ。早々に学校の上層部が動くやも知れぬな。」
果たしてその通りとなった。
「黒田ッ!校長先生から直々の呼び出しだ!
ついて来い。朝の出欠等は栗田先生にお願いした!」
2年校舎の廊下に踏み入れると同時に、牟田口からそう声が掛かる。
「はて…ワシ、いや、僕、また何かやりましたかな?」
無言で右平手打ちを繰り出す牟田口。
しかし今度は喰らって倒れてやる義理はない故、悠然とワシは躱す。
顔色を明らかに変える牟田口。
「つ、つぎ無駄口を叩くと許さんからなッ!!」
そう言って向き直り、校長室の方角へと大股で歩き出す。

笑止。何が無駄口か。うぬ自身の存在がムダグチであろうが。

やがて校長室へと着く。
「いいか、理事長が長期入院していらっしゃる今、この学校を一手に取り仕切っておられる方だ!きちんとノックして大声でご挨拶しろッ!」
こうか?
「御免ッ。織田三郎信長…。罷り通るッ!」
「な、貴様ぁ!」
牟田口が何かしようとした時。
「宜しい、入り給え。」
奥からの通りの良い声に、牟田口は微かに舌打ちしつつ、扉を開ける。
「失礼致す。」
もはや後方の木偶の坊には一瞥もくれず、大股で奥に座す人物へと歩み寄る。
齢60過ぎ…といったところか。
頭髪はキンカであるが、相応の威厳がある。
「まずは再生回数10億超え、おめでとうと言ったところかな。黒田泰年君。いや、織田三郎信長公。」
「恐悦に候。校長殿。」
校長、そんな呼び方をしては…と隣に立ち口を挟む教頭を右手で制し、校長は続ける。
「しかしその代償はあまりに大きかったな。早速各方面からの抗議が殺到だ。」
「で、ありましょうな。」
「まずはファシズムと戦う世界市民の会、通称WCFF。そのシアトル総本部だ。」
ほう、いきなり本丸が来たてか。
「そして日本の草原教会。で、○○総連、日本、中国の共産党。」
ふむふむ。
「とにかくリベラルを掲げるほとんど全ての組織団体からあらかた来ていると言って良い。」
つまりはそれでおおよそ「炙り出せた」という事であるな。
「しかも8割方の団体が、我が校ごと君を訴えると言っている。一応現在は未成年の人権を盾に、君の個人情報は言っていないが…。しかしそれにも限度というものがある。」
「要は我に早々に退学せよと…?」
「理解が早くて助かる。」
ふっと横目で見ると、牟田口が唇を歪め、嗤うのが見える。

まぁ。今更どうでも良い。
どの道この箱庭に長く居るつもりもなかった。
父姉にいらぬ心配をさせぬよう、形だけ行っていたに過ぎぬ。
それに先刻ハルが言っていた通りならば、少なくとも数千万円単位の銭が我がもとに入ってくると言うことである。
つまり黒田の親父殿が現在の商いに関し暇をもらったとしても、全く困らない。
しかも(まぁハルに殆ど祐筆代わりに代筆?させているのだが)
Twitterのフォロワーとやらも1000万に迫る勢いと言う。
ハルが言うスーパーインフルエンサーとしての地歩は確実に固まっているのだ。
此処を去った所で何ら困らない。
が…校長はともかく、牟田口辺りの思う壺で素直に去ると言うのもな…。
それにサルの仕事の成果を全くの無駄にするというのも…。
ワシはブレザーの内ポケットをまさぐる。
「ところで校長殿、退学届を出す前にお見せ致したきものが…。」
「ほう?」
「あなたの教員時代からのフィリピンへの旅行が、妙に公私共に多いと思い、サルが細かく調査したのです。その結果…。」
ワシはレポートを突き出す。
牟田口も教頭も覗き込む。
レポートに何枚も写っている画像は、いずれも容貌の異なる…明らかに年端のいかぬ少女と、校長自身とのあられもない姿であった。
!!!!?!??
「要するに25年以上もの間、あなたはフィリピンで未成年女性を買春していましたね?
しかもそれをご丁寧に画像保存してPCで管理していた。
その累計数、実に1万3千人!!!」
両脇の牟田口、教頭は青ざめていた。

明らかに「ドン引き」という態であった。







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