最強のカップルはただ単に楽しみたい ~最強(トール)と天魔(パートナー)の学園無双~

志水零士

第一章 ~入学試験~  17 相馬の試験(前)

「おつかれさん。……怒りは収まったか?」
「正直、全然収まってないの。謝ってもらったわけでもないし……でも、やり過ぎも良くないから、あれで終わりにしてあげたの」
「いい判断だな。あれ以上だと、さすがに問題になっただろうし」
「……僕はあれでも、かなりやり過ぎだったと思うんですが」

 フェイロのその言葉は、とても常識的なものだった。しかし常識が一切通じない者に、それを説くことほど意味のないこともない。

「いやいや、よく考えてみろよ。教師のさっきの試験での損害は一筋の切り傷と、ノイが操っていた白い怪物たちの攻撃による打撲だけだぞ。過程はともかく、な。そう考えると、そこまでのことをやったわけでもないだろ。その程度の怪我をすることくらい、受験者の相手をすることが決まった時点で覚悟していたはずさ」
「……過程を抜くと、妙にそれっぽく聞こえますね。一方的な攻撃を行って教師の体と心に多大なダメージを与えたあと、体をもとの状態に戻して何事もなかったようにした、っていうのが正確な気がするんですが……あの教師が受けた、精神的ダメージについてはどう考えているんですか?」
「証明のしようのない損害なんて、知ったことじゃないな」
「……まぁ、そうですよね。そういう答えに、なりますよね……はぁ」

 小さく溜息を吐くフェイロ。真面目に責任を取るわけがないとは思っていたが、それと呆れるかどうかはまた別の話なのだ。
 三人の話からも分かる通り、白紙アイソレーションは既に解除され、教師の体は五体満足な状態に戻っている。未だに気絶しているが、しばらくすれば起きるだろう。

「さて。一体これから、どうするべきか……」
「と、言いますと?」
「俺の試験だよ」
「……ああ、なるほど」

 相馬の言葉の意味を理解し、フェイロは未だ目覚めない教師に視線を向ける。教師がこの状況では、確かに相馬の試験は行えない。

「普通はこういう事態も考えて、二人一組にしておくもんじゃないの? 人員不足ってわけじゃあないだろうし」
「……普通という点で話すなら、受験者に教師が負けるのは普通ではないのでは?」
「もし学園がそう考えているなら、それはそれで受験者を舐め過ぎなの。私たちレベルのを想定しろとは言わないけど、負ける可能性くらいは考えておくべきなの」
「……ふむ。どうやら、迷惑を掛けたようですまんのう」

 ノイとフェイロが話をしていると、突然そんな声が響いた。直後に一帯に緊迫感が走り、受験者たちは思わず息を呑んだ。ノイの、殺気によるものである。
 声の聞こえた方向――後ろに振り向いたノイの瞳に映ったのは、かなりの歳に見える爺さんの姿だった。後ろを取られたことに驚いて殺気を飛ばしていたノイだったが、相馬に肩を軽く叩かれて正気を取り戻す。

「……して、お主がまだ試験をしていないということでいいかのう?」

 先ほどこの場の空気を引き締めた殺気は、正確にはその爺さんに向けれた殺気の余波だ。しかし、余波でもそれだけの効果がある殺気を向けれたというのに、彼は何事もなかったように思えるほど自然にそう尋ねたのだ。
 そしてその反応に対して、相馬は特に何も言わなかった。むしろ当然とでも言わんばかりに、相馬は爺さんの問いに答える。

「ああ、そうだ。……もしかして、あんたが戦ってくれるのか?」
「それがお主の望みか? では、そうしようかのう」

 その直後、上空に数百本の炎の矢が出現した。そしてそれは、相馬に向かって容赦なく降り注いだ。




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