最強のカップルはただ単に楽しみたい ~最強(トール)と天魔(パートナー)の学園無双~

志水零士

第一章 ~入学試験~  16 ノイの試験(後)

 数十秒にわたって三匹、そして九匹の怪物に襲われていた。そう言うとかなりの怪我をしていそうな感じだが、実のところ教師はほとんど怪我をしていない。
 衝撃によるダメージなどはあったが、言い換えればそれだけだ。教師の恐怖心は、時間が経つにつれて弱くなっていたが――当然ノイが、このまま終わらせるわけもない。

 避けれそうにない攻撃。教師は今までと同じだと思って、左腕を犠牲にして避けようとした。痛みは我慢すればいい、と。
 しかし不幸なことに、その選択は誤りだった。ノイの派生技ブランチ白紙アイソレーションが火を噴く。

「で、片腕を失った感想は?」
「なっ⁉」

 跡形も無く消えた左腕。しかし教師が声を上げた理由は、それではない。
 痛みが無かったのだ。そして断面からは血肉などは見えず、ただただ真っ黒だった。

「お前……俺の右腕をどこにやった⁉」
「それを言う必要性は感じられないの。ただ一つ言うなら、これは私の派生技ブランチなの」
「ちっ! つまりさっきまでのは、本当に派生技ブランチじゃなかったってことか‼」

 別に派生技ブランチは、複数持てないものではない。しかしほとんどの覚醒者ブレイバーは一つしか持てていない。複数持っている可能性よりは、単純に基本性能が高い可能性の方が高いはずだと、そう考えたのだった。
 実際は基礎性能が高くて、かつ派生技ブランチが複数あるのだが、さすがにそんな発想は教師に無かったのだ。

「ということで、続けるの」
「いや、ちょっと待っーー」

 何が「ということで」なのか。そんな疑問も教師にはあったが、それ以上に彼は更に体の一部を失うことを恐れて、制止の言葉をかけようとした。だが、それはかなわなかった。
 白い獣たちの中の一匹が、今までとは桁違いの速度で教師の口に攻撃を仕掛けたのだ。教師の顔から、口及びその周辺が抉りとられ、左腕と同様に黒の断面が残る。

 ノイが有する派生技ブランチの一つ、白紙アイソレーション。その性質は、対象の隔離だ。
 自分が操る白を何も書かれていない白紙とし、そこに対象の情報を全てそちらに書き写すことで、対象を白の中に隔離するのだ。反対の処理をすることで、元に戻すことも出来る。
 ノイが容赦なく左腕や口を奪ったのはそれが理由だ。決して、血も涙も無い人間ではないのだ。

 九体の怪物たちは、既に無い左腕以外の四肢を徐々に消していき、最後には胴体をも消し去った。唯一残った頭部に向かって、ノイは周りには聞こえないくらいの声量で話し掛ける。

「そろそろ理解したの? 言っておくけど、私はまだまだ隠し球がある。覚醒者ブレイバー序列の上位者っていうのは、そういう存在。軽々しく、目標にするのは自由なんて言っていい存在じゃないの」

 ノイが怒っていた理由はそれだった。自分や知り合いの上位者、そして何より相馬を馬鹿にするような発言に、ノイは耐えられなかったのだ。
 その言葉を聞き、教師はやっとノイの正体に気づいた。そして薄れゆく意識の中で、教師は序列二位の異名が「天魔」である理由についての噂を思い出していた。
 「天使のような容姿で悪魔のようなことを行うために、天魔という異名がつけられた」、という噂を。




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