最強のカップルはただ単に楽しみたい ~最強(トール)と天魔(パートナー)の学園無双~

志水零士

第一章 ~入学試験~  5 最強二人の身分証明(とある女性の不幸)

 その女性はもともと、平凡な村人の娘だった。しかし彼女は、普通の村人として生きるのではなく、更に上を目指そうとした。
 そのために女性は人一倍努力し、結果として幸運にも恵まれて学園の職員になれた。……だが、その初仕事の入学試験の受付で、彼らに当たってしまったことは、ただ不運だったとしか言いようがないだろう。

「……はい、確認しました。次の人、どうぞ」

 受付の人の疲労軽減と、受験者の個人情報の保護のために設置された仮設テントの中から、女性は外に向かって声を掛ける。入って来たのは、相馬だ。

「失礼します。自分の名前は黒星相馬。姓が黒星で、名が相馬です」
「黒星さんですね。それでは、身分証明書を提示してください」
「はい、どうぞ」

 相馬が出したのは、一枚の黒いカード。どう考えても彼女が今まで受け取って来た、白い紙に色々と書かれたものとは別物だった。

「えっと、すみませんがそういうのは駄目なんですよ」
「……どういう意味ですか?」
「学園の入試試験で使える身分証明書は、どこかの国の王のサインが入った、指定の紙だけなんです。例え王族の証とかを持っていても、このルールに例外はありません。すみませんが、今回の受験は見送ってもらうことになります」
「いえ、そのルールは知っていたんですが……これは例外ってことだと思ったてんだがなぁ。昨日の内に、どっかの王を脅しに行っとかなきゃいけなかったのか」

 素の出た口調でそんな物騒なことを言いながら、相馬はポケットにカードを戻そうとする。女性はその発言に軽く恐怖を抱いたが、遅れながらそのカードが何なのかに気づき、その感情は一瞬にして消失した。

「ちょ、ちょっとまってください! すみませんが、もう一度確認させてもらえませんが」
「ええ、もちろんいいですよ」

 渡されたカードを、女性はじっくりと眺める。それは彼女が知っているものの姿と完全に一致し、記された番号は――1。

「……もしかして、あなたは最強トールなんですか」

 序列一位の強さと異名。それは、ほとんどの人が知っているほどに、有名なものだった。
 正体を知られた以上、相馬は年上への礼儀なんてものを払ったりはしなかった。ただ、強者としての風格を感じさせる笑みを浮かべながら答える。

「ああ、そうだ」

 その一言は、相馬が一位だということを女性が確信するのに、過剰なほどの重みがあった。更に彼女の精神は、既にかなり参っている。
 だが、それは二人の意思とは全く関係なく、ある仕組みの一つとして訪れる。

『全人類の皆様にお伝えします。只今、覚醒者ブレイバー序列一位の最強トールが身分証明のため、上位者限定特別カードを使用したのが確認されました。それらしきものを提示された方は、偽物ではないのでご安心ください。以上で、ご報告を終了します』

 突然、脳の中にそんな声が響いた。テントの外が騒がしくなり、女性は軽い放心状態に陥る。

「……すまん。まさかこんな機能があるなんて、知らなかった」
「い、いえ、大丈夫です。もう、行っていいですよ」
「そうか……本当に、悪いな」

 そう言って、相馬はテントから出ていった。……そして女性は、相馬が最後に言った言葉の本当の意味に、すぐに気づかされることになる。

「次の人、どうぞ」
「失礼するの。私は覚醒者ブレイバー序列二位の天魔(パートナー)、ノイ・ホワイトなの。はい、これ」
「……ああ」

 手渡されたのは、当然黒いカード。そしてまた、あの声が響く。

『全人類の皆様にお伝えします。只今、覚醒者ブレイバー序列二位の天魔パートナーが身分証明のため、上位者限定特別カードを使用したのが確認されました。それらしきものを提示された方は、偽物ではないのでご安心ください。以上で、ご報告を終了します』






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