最強のカップルはただ単に楽しみたい ~最強(トール)と天魔(パートナー)の学園無双~

志水零士

プロローグ ~最強の戦い~

 その空間を表現するのに、もっとも適した言葉は『地獄』だろう。あるいは、『混沌』か。
 万物を溶かすのではないかと思えるほどの熱気や、絶対零度にほど近い温度の固体が混在するという、物理法則を無視した状態。加えてそれらが縦横無尽に荒れ狂っており、その影響を受けて地形が常に変化する。

 その中心に存在する巨体の邪生タイラントの名は、無手の王ノーハンドキング。腕や足は無いが、それは無手の王ノーハンドキングの弱さを示すものではない。
 無手の王ノーハンドキングは、周囲をこのような状態にしている張本人である。周囲の環境を自在に操れるために、四肢に類するものが不要なだけなのだ。

 足を踏み入れれば、待つのは残酷な死のみ。そう言っても過言ではない無手の王ノーハンドキングの領域の傍に、一組の男女が訪れていた。
 男の名は黒星相馬。黒い髪と瞳を持ち、背は高い方には入るだろういった程度。至極、平凡な容姿と言える。
 それに対して女、ノイ・ホワイトの方はかなり特徴的な容姿だ。白い長髪と黒眼という組み合わせに加えて、かなり小さな体躯。そして何よりも目を引くのは、その服装だ。

 相馬が着ている服は、ちょっと特徴的な戦闘服といった感じのもの。それに対してノイが来ている服は、染み一つない純白のドレスだった。
 もっとも、相馬の服も普通ではないのだが。見た目が普通というだけで、それ以外の点を考えればノイのドレスの方が普通なくらいなのである。

 二人は、灼熱と極寒が入り混じったその空間に目をやりながら、かなり軽い調子で言葉を交わす。

「うーん。残念だけど、ノイは一緒に来れそうにないな」
「私もそう思うの。……相馬、一人で行けるの?」
「もちろんだ。それじゃ、行ってくる」
「ん。気をつけて行ってくるの」
「ああ」

 ――雷掌握エレキスタイル、起動――
 ――派生技ブランチ神の肉体オーバーライツ、展開――

 地を蹴ったわけでもなければ、羽をはやしたわけでもない。それなのに、相馬は唐突に飛翔し、その空間に突っ込んだ。
 当然、その体は灼熱と極寒の嵐にさらされたが、相馬は意に介さなかった。一拍置いて、大気が更に荒れ狂う。
 何故か侵入者が死なないことに気づいた無手の王ノーハンドキングが、相馬を標的として認識したのだ。だが、相馬はそれでもなお、全く気にしなかった。

 ただ真っ直ぐ、相馬は飛ぶ。とはいえ、無手の王ノーハンドキングだってそれ傍観しているだけではない。

「……なるほど。まさか、様々な物理現象を操るだけじゃなく、空間破壊まで引き起こせるとはな。ただ、さすがに同時に色々とやるのは難しいのか」

 ギリギリのところで崩壊する空間に巻き込まれるのを回避した相馬が、空中に浮かびながらそう呟く。
 喋ろうとすれば音になる程度に嵐がなくなっていたが、相馬にとってはあってなかったようなもの。その代わりに空間破壊に気をつける必要が出てきたのだから、危険度はプラスになったと言える。

 一瞬の思考の後、相馬は再度空を飛び始めた。

「空間破壊だろうがなんだろうが、避ければいいだけの話だ、ろ!」

 無手の王ノーハンドキングが連続で引き起こす空間破壊を、相馬は上手く避けながら距離をつめる。それはまさしく、針の穴を通すような精度で。

「やっぱり、戦闘経験はあまりないみたいだな。今まで一方的に屠ってきたから、駆け引きなんてまともにやったことないんだろ。次に壊しにくる空間が丸わかりだぞ!」

 そう叫ぶ相馬だったが、彼の行動にも変なところがあった。何故か滑らかに曲がることはせず、かくかくと一度止まってから方向を変えていたのだ。
 さほど時間も要さずに、無手の王ノーハンドキングはそのことに気づいた。それを利用して、攻撃を当てようとする。

「ぐっ⁉」

 方向転換の際の隙を狙われ、相馬は空間破壊に巻き込まれた。胴体が、一瞬にして消滅する。

 ……だが。

「驚いたか? 殺したはずの相手が無傷だったら、そりゃあ驚くよな。教えてやる。神は死なないんだよ」

 煽りに煽る、黒星相馬。空間破壊によって壊された服はそのままだったが、相馬の体には一切の負傷がなかった。さっき胴体が、完全に消さされたにも関わらずだ。

「フ、フザケルナ⁉ オ前ガ神ダト? 馬鹿ナコトヲ‼」
「……お前、喋れたんだな。あと、馬鹿なことをとかって言われても、神の肉体オーバーライツはその名の通りに神の肉体を再現しようとしたものだし、あながち間違いでもないんだぞ?」
「エエイ、ウルサイ‼」

 若干戸惑い気味な態度の相馬の体を破壊するため、無手の王ノーハンドキングは空間破壊を叩きこむ。しかしどこを壊されようと、彼の肉体は瞬時に復元した。

「……はぁ。服、駄目になったじゃないか。もったいないから、わざわざ避けてたのに。――あ、そこは駄目」

 ――真技シード全てを砕く雷拳ミョルニル、展開――

 瞬間、相馬の右拳に何かが宿った。見た目は変わっていないのに、今までとは明らかに違う。
 何もせずとも、大きく空間を揺さぶる拳。それはただそこにあるだけで、無手の王ノーハンドキングの空間破壊を防いだ。
 明らかに異常。しかし冷静さを失った無手の王ノーハンドキングは、そのことに気づけなかった。

「ナルホド、ソコガ弱点カァァア‼」

 防いだという事実だけを認識して、無手の王ノーハンドキングは空間破壊を連発する。相馬はそれを面倒くさそうに、その右拳をもって防ぐ。

「……なんか、もう面倒だな」

 空間破壊を防ぎながら、相馬は右拳を構える。狙うは、無手の王ノーハンドキング
 さっきから二人は会話をしているが、その距離はかなり離れている。百メートルはあるだろう。

 そんな遠距離なのにも関わらず、相馬の体勢は目の前の相手を殴りつけるようなもの。傍目から見たら馬鹿の所業だが、その瞳には強い自負が宿っている。

 ――真技シード全てを砕く雷拳ミョルニル、収束――

 それの性質は、空間破壊を防いだものと何も変わらない。ただ、強さが格段に違った。
 さっきまでのは、あくまで物理空間に対して何かを起こすというものだった。しかしそれは、物理空間という枠組みを超越する。

 一点に収束され、限界を超えて高められたそれは、無手の王ノーハンドキングという存在を砕く。相馬がそれの使用を決めてしまった以上、無手の王ノーハンドキングに勝ち目はない。

「終わりだ、無手の王ノーハンドキング。一発で沈めてやる」

 そして、それが振るわれる。
 無意味な破砕音の類いは鳴らない。拳が空を切る音とともに、無手の王ノーハンドキングは跡形も無く消失した。

 相馬によって無手の王ノーハンドキングという存在が消えたことで、その空間の異常性はなくなった。無手の王ノーハンドキングによって発生した分の熱が周囲の熱量の総和から引かれ、偏りも徐々に修正されていく。
 異常な熱によって気化していた物質が液化、またはそれを通り過ぎて固化していく。雨や雪のようでそのどちらでもないその現象は、幻想的で現実感がなく、何より危険なものだった。

「ヤバいな。このままだと、しばらくしたら体が埋もれる。……さっさと戻るか」

 もし埋もれたとしても相馬は簡単に出てこれるだろうが、わざわざ面倒くさい選択肢を選ぶ理由なんてない。踵を返し、相馬はその場から去る。
 熱変動による状態変化で視界が悪い空間を抜けた後、相馬はすぐにノイを見つけた。同様にノイも相馬の接近に気づき、小さく笑みを浮かべる。

「おつかれさま。強かったの?」
「ま、かなり強いやつだったな。服は壊されちゃったし」
「……そんなことを言ってはいても、パンツの位置は守っているあたり、さすがなの」
「そりゃあな。さすがに丸出しってのはマズいだろ」

 さっきの戦いで、相馬が咄嗟に空間破壊を防いだ理由はそれだった。戦闘面での理由ではなく、倫理観に基づくものだったのだ。

「確かにその通りだけど、そこが隠れてさえいいってわけでもないの。はい、これ。早く着替えるの」
「ああ、ありがとな」
「ん」

 ノイが後ろを向いたのを確認し、相馬は手渡された服に着替える。野外での着替えだが、ノイ以外には近くに人はおらず、そのノイも見ていないのだからいいだろうという判断だった。
 着替え終えるのを待ち、ノイは相馬に問い掛ける。

「それで、何で壊れたの?」
「空間破壊だ。一瞬で完全に壊されたから、さすがに駄目だった」
「そう。神の肉体オーバーライツの効果で、常時修復される相馬の肉体とリンクする手法……いいと思ったんだけど」
「どんな物理現象にも過程があるのを利用して、その途中で修復されることで状態を維持しているだけだからな。過程ゼロで消滅させられちゃ、どうしようもない。……相手が悪かったってだけで、十分いい出来だったと思うぞ」
「いや、妥協は許されないの。絶対に、相馬の服としてふさわしいものをつくってみせるの」

 小さな拳をグッと握り、ノイはそう宣言する。その微笑ましい姿に、相馬は思わず口の端を緩ませる。

「それじゃ、楽しみしとくよ。とりあえず、家に帰るぞ」
「了解なの」

 ノイが相馬の手を取り、相馬は反対の手を振るう。まだ無手の王ノーハンドキングを屠った力の残っている、その拳を。
 距離の破壊。そんなバカげた方法で、二人は家の前へと転移した。

「先に入っていてくれ。俺は郵便受けを確認してくる」
「それじゃ、私は夕食でもつくっておくとするの」
「お。それじゃあ多めに頼む。かなり腹が減ってるからな」
「……神の肉体オーバーライツを使って、健康な状況を維持して戦っていたのに?」
「痛いところを突いてくるな。……単に、ノイの手料理をたくさん食べたかったんだよ。最近は外食ばっかで、しばらく食べてなかったからな」
「そういうことなら、普通に言ってくれれば良かったの。お金は有り余るほどあるし、量が多少変わったところで手間は変わらないんだから。何でわざわざ嘘を吐いたの?」

 きょとんとした表情のノイの瞳に宿るのは、あくまで純粋な疑念。それ対し、相馬はぐしゃぐしゃと髪をかき回した後、ノイの顔から少し逸れたところに目をやりつつ言う。

「……恥ずかしかったんだよ。みなまで言わせんな」
「……なるほど。食料の在庫的には問題ないし、要望に応えてたくさん作ってあげるの」

 気まずい雰囲気から逃げるように、ノイは家の中に入って行く。その後ろ姿を見ながら、相馬はため息を吐いた。

「全く、ノイの奴は。天然っつーか何って言うか……そういうところも含めて好きなんだから、俺も手に負えないな」

 再度ため息を吐き、相馬は郵便受けの方に向かう。その中に入っていた数個の封筒を手に取った相馬は、その中の一つの送り先を見て、小さく眉を顰めた。

「学園、だと?」

 相馬は封筒を破り、中の紙に目を通す。そこに記されていたのは、『二人に入学して欲しい』というたった一文だけ。
 見なかったことにしてもいいレベルの簡素な手紙だったが、相馬はニヤリと笑みを浮かべた。――つまるところこの瞬間、覚醒者ブレイバー序列一位と二位、最強トール天魔パートナーの入学が決定したのである。







 ……いや、言いたいことは分かりますよ、(いるのか分かりませんが)私の他の作品の読者さん。
 他の作品はどうしたんだ、と。そして、どうせこれも打ち切りになるんだろう、と。
 正直に言いましょう。この作品が打ち切りにならないなんて保証はどこにもありません。
 ただ、ただですよ! 今、私が書きたいのはこれなんですよ! 他の作品じゃなくて。
 それなのに書きたくもない作品を書こうとしても、駄作にしかならないんですよ。時間もかかりますし。
 そういうことで、しばらくはこの新作を書きます。出来れば、打ち切りにならないようにもします!
 
 それで、図々しいかもしれませんが、出来ればいいねとフォローをよろしくお願いします。
 知ってますか? これを押すことで、打ち切りになる可能性が格段に下がるんですよ!
 まぁ、自分のやる気の問題ではあるんですが……みんなが読んでくれるというのは、やっぱり原動力になるわけで。
 いいねは、面白いと思った話だけでいいのです。

 因みに先に宣言しておきますが、この作品の投稿は完全不定期です。週に最低一回は投稿したいとは思っていますが(毎日投稿とか、みんなどうやってんだ?)。
 どうか、よろしくお願いします。

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