Time Synchronicity

藍乃音

EP2.ある日、ある職員室で

「おはようございます」

大希は職員室の扉を開け、挨拶をしながら入っていく。

「藤原先生、どうしたんですか?表情が見たことないくらい暗いですよ?」

藤原というのは大希の苗字である。そして、声をかけてきたのは席が隣の高杉という歴史を受け持つ教師だ。

「あ、高杉先生。おはようございます。ちょっと考え事が多くて・・・」

「色々と悩んでいるようですね。学校でのことなら相談に乗りますので、いつでも言ってくださいね。」

高杉はにっこりと大希に笑顔を向けながら言った。
大希は高杉に色々と学級経営などの問題を相談してきた8つ上の先輩教師である。
しかし、今回のようなことを相談するわけにはいかない。

「ありがとうございます。ちょっとプライベートで色々ありまして・・・切り替えますので大丈夫です!」

無理矢理表情を作って返答したためか、なんとか上杉も安心してくれた。

『キーンコーンカーンコーン』

職員打ち合わせのチャイムが鳴り、大希はどことなく懐かしい感覚に襲われる。
しかしゆっくり昔を思い出す暇もなく、一斉に教師たちが立ち上がった。

「おはようございます!」
「おはようございます!」

教頭の一声を合図に、教師が一斉に挨拶する。
この一連の動作も今の大希には興ざめに感じていた。
1日の予定を教頭が一通り話し終えると、今度は学年の打ち合わせだ。
学年主任の司会で、今日1日の打ち合わせが始まる。

「そろそろ新学年にも慣れてくる頃なので、厳しく指導してください」

学年主任の田澤が強い口調で学年全体に呼びかけた。
しかし、大希の中では厳しくするからこそ反抗が生まれるのであり、それ以外の方法でクラスをまとめ、安定させてきた。
適当に全体に合わせつつ、自分の受け持つ担任の教室に静かに向かった。

「まさかまたあいつら全員に会えるとは思っても見なかったな。」

担任を持つたびにクラスに感情移入することは、教師であれば誰しも通る道である。
しかし、大希の場合は少し違っていた。

「美月もあいつらと同じ歳なんだよな・・・」

教師という職に就いていた時には、生徒を恋愛対象にするということは全く考えたこともなかった。
思えなかったというのが正解である。
それは今も変わらないはずである。
美月と出会った時には、すでに成人を迎えていたのだから。
しかし、今自分が好きだった相手は高校2年生であるため、ここでも混乱してしまう。

「とりあえず・・・今は考えないでおこう・・・」

さらに浮かない表情になってしまった大希であったが、仕事ということを全力で意識し、プロ意識から自分を奮い立たせて教室のドアを開けた。

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