Time Synchronicity

藍乃音

EP1.過去の朝

部屋を出た大希が最初に過去だと感じたものは、自分の車だった。

「懐かしいな。またこれに乗れるなんて」

つい昨日まではBMW製のMINI CooperS F56に乗っていたわけだが、5年前は1つ前のモデル、R56に乗っていたのだった。

「オートマに慣れてたけど、久々にマニュアルを運転できることは嬉しいな」

元々マニュアルが好きであったが、F56のマニュアルがなかなか出て来ずに泣く泣くオートマチックモデルを購入したのだった。
車を乗り換えた原因は、メンテナンスを怠ってしまったためだった。

「もしかして、これからメンテすればもっと長く乗れるのか?」

しかしそんな大希も、次の瞬間落胆してしまう。

「あ、バイク・・・そっか。まだ免許すらないんだった。」

莉緒と別れてから時間を持て余してしまい、何か趣味を持とうと思って通い始めたのがバイクの教習だった。

それからというもの、バイクにどっぷりはまってしまい、週末はツーリングに出かけるかバイクのメンテナンスに明け暮れていたのだった。

「また教習に通わなきゃいけないか・・・」

5年前の現実を受け入れようとする大希の中で、再び新たな葛藤がよぎった。

「美月・・・どうしてるんだろう・・・」

最も愛していた相手である美月は高校生だ。
「まだ出会ってすらもないもんな。」

そして、今付き合っている莉緒のことも同時に思い出していた。

「今は莉緒と付き合っているのか。忘れてたはずだったのに・・・」

付き合っていたはずの美月にはまだ出会ってもおらず、彼女という位置付けにいるのは恋愛感情を失った莉緒だった。

「莉緒と別れた原因を回避すれば、もしかしてこれから先付き合っていくことも可能なのか?」

莉緒とは大希の仕事の問題で揉めた末に別れたのだった。
教師という仕事にストレスを感じ、愚痴が多くなってきたことから喧嘩になったというありきたりの別れだった。

「5年前の莉緒のことは当然好きだったけど・・・今更?」

通勤するために車を発進させながら、そんなことを考えていた。

「美月に会いたい・・・けど、あいつはまだ高校生だぞ?」

高校生と教師の恋愛となると、マスコミが食いつきそうなワイドショーネタになるレベルの大事件である。

「しかも美月は高校の時に携帯を持ってなかったって言ってたよな。出会ったとして、俺に何ができるんだ?」

大希は浮気などしたことはないが、なんだか2人の女性を天秤にかけているような、浮気しているような感覚に襲われていた。

「久しぶりのマニュアル車運転しているのに、全然楽しくないな・・・」

美月と莉緒、2人のことを考えながら、車は学校へと入っていった。

「またあの中に入っていくのか・・・」

大希が教師を辞めた理由は、職員室での人間関係であった。
教員間のギクシャクした関係や上司からの無理難題、パワハラが原因だった。

「今日からまたあの毎日が始まると思うとうつになるな」

そんなことを考えながら車を停車させ、職員玄関から学校へ入っていくのであった。

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