流し人形

白河よぞら

第14話 警官たちの夜

 同日、5月13日、13時頃。石動警察署。
 轟木町へと出かけていた三峯警部は、石動警察署に残って捜査情報をまとめていた林警部たちと合流して、少し遅い昼食を食堂でとっていた。
 石動警察署には食堂が完備されており、栄養満点の食事が毎日食べられる。ちなみに、全品500円。

「全品500円ってすごいよな」
「大盛りも無料ですか・・・・・・」
「お前、いつも大量に食うよな」
「食事は、身体のエネルギーですからね。よく食べ、よく寝るのが大切なのです」

 林警部は、ヒョロヒョロとした見た目の割に大食らいであるため、食事は基本的に大盛りで食べる。警視庁本部庁舎の勤務ではあるが、食堂で食べるよりも、ファストフードの方が好きということもあり、近くにあるファストフード店までわざわざ買いに行くこともある。

「へー。林警部、結構考えて食べてるんですね」
「まぁ、とはいっても、こいつが食べるのは大体ファストフードなんだけどな。本庁の近くにはファストフード店が何件かあるから、そこまでわざわざ買いに行くんだ、こいつ」
「いいでしょう。好きなんですから」
「それでよく、健康診断とか引っかかりませんね・・・・・・」

 ファストフードばかり食べていれば、健康診断に引っかかりそうなものだが、意外なことに林警部は入庁以来、定期健康診断に引っかかったことはない。が、さすがに食べ過ぎであることは自覚しているらしく、少しずつ減らそうと努力はしているらしい。上手く行くかは別の話だが。

「さて。そんなことより、三峯警部。どうでしたか? いましたか、怪しい人物は」
「・・・・・・ああ、いたよ。飛びっきり怪しい奴が一人、な」
「ほう。それは?」

 三峯警部は、一人の男性のことを思い出していた。午前中、雨が上がったあとに流し人形の運営テントに居る時に出会った、一人の男性だ。

「緑川敦也」
「緑川、敦也? 誰です、それ?」
「あー、あれっすね。例の放火された家の」
「ああ。あの」
「しかし、なぜ彼が怪しいと?」

 話としてはそれなりに前の話になるが、練馬区にある緑川家は、謎の火災により全焼している。出火元は、屋内。しかし、誰も出入りした様子はなく、また、出火時にたまたま全員家にはいなかった。その一家三人が、轟木町へと来ている。正直言って偶然だとは思えない。いや、偶然かもしれないが、偶然で片付けたくない。
 緑川敦也が口にした言葉を思い出していた。彼は、我々警察しか知らない情報を知っていた。

「知ってたんだよ」
「何がですか?」
「2件目の殺しあっただろ。あのガイシャを」
「は?」

 三峯警部からその言葉を聞いた時、他の3人は黙ってしまった。知っているはずがないのである。なぜなら、そもそも事件があったことは発表しているものの、被害者については一切情報を出していないからだ。しかし、だからといって必ずしも怪しいというわけではないが。

「しかし、たまたま知っていたのでは?」
「その可能性はありますね。第1発見者は、轟木町の方でしたよね?」
「ああ。だが、第1発見者は、緑川敦也ではない」
「え、そうなんですか?」
「お前ら・・・・・・。報告書ちゃんと呼んでるのか?」

 三峯警部に言われ、互いに顔を見合わせたあと、そっぽを向いた。どうやら、報告書は読んでいないようだ。昨日の捜査会議で渡されたハズなんだが・・・・・・。

「仕方ないな」

 そういって、三峯警部はどこからともなく、捜査資料を取り出した。A4サイズの20枚綴りだ。表紙にあたる部分には『轟木町連続怪死事件捜査資料』と書かれていた。

「一体どこから・・・・・・」
「そんなことはどうでもいい。ここを見てみろ」
「どうでも・・・・・・いいのか・・・・・・?」

 三峯警部は、捜査資料を数枚捲った。16枚目の、第2の事件と書かれた用紙の、第1発見者欄には別の人物の名前が書かれていた。

「この名前は・・・・・・」
「美神自治会長ですね」
「しかし、美神自治会長と共に居たとは考えられませんか?」
「それなら、その他の発見者の部分に記載されるだろ。だが、実際はされていない」

 4人は資料を見て、確かに、というような顔をしていた。しかし、そうすると緑川敦也がいつ、どこで、第2の被害者のことを知り得たのかが問題となる。現在のところ、身元不明の遺体が発見されたことしか発表されていない。身元不明扱いであるため、写真などもテレビ局などには提供していない。

「とすると・・・・・・」
「ああ。今のところ一番怪しいのは、緑川敦也だ」
「そういえば今日、前夜祭と予行練習がありましたね、人形流しの」
「そういや疑問なんだが、人形流しなのか? 流し人形なのか?」

 三峯警部にそう言われ、2人の刑事は顔を見合わせたあと、ああ、そういうことか、というような顔をして、三峯警部の方を見た。

「流し人形というのは、祭りの名前で、人形流しというのは、祭りで行われる行事のことですよ」
「ですから、似た名称ではありますが、厳密には違うんです」
「なるほど。いや、みんな流し人形って言ったり、人形流しって言ったりするから、どっちが正しいのかと思ったら、そういうことだったのか」
「それで、三峯警部。どうしますか。今は14時。前夜祭が予定通り行われるとしたら、18時からですよ」
「無論、行く。中止になる可能性はあるらしいが、別に行かない理由はないだろう。警備もしなくちゃいけないしな」

 今年は、例年よりも人が大勢来ると予想されており、すでに現時点でもかなりの人数が石動市内のホテルや、轟木町の民宿などに泊まっているらしく、人手が足りないということで、手が空いている刑事課にも応援要請が来ていた。

「しかし、こんな大変な時に、応援要請を受けるもんですかねぇ」
「さぁ。刑事がいることによって、事件を起こしにくくするという考えもあるんだろ」
「それ、別に刑事である必要はないですよね」
「ああ。だから、制服だとよ」
「ああ、なるほど・・・・・・」

 こうして、三峯警部たちも轟木町の「流し人形・前夜祭」へと向かうことになるのであった。

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