流し人形

白河よぞら

第7話 警察と発見者

 5月10日、午前9時30分、「流し人形祭」運営テント。
 この日、すでに大人たちが何人かすでに集まっていた。昨日、交代で見張り番をした大人たちと、話を聞きつけてやってきた石動警察署の警察官が数人だ。俺の父さんは、朝ご飯を食べて俺たちに何があったのかを説明したあと、自分も向かう必要があるから、ということで、運営テントにいた。

「どうもどうも、町長の村井です」
「石動署の神埜じんのです。こっちが河原かわはら飯塚いいづか河見かわみ木津喜きづきです」
「それで、死体が発見されたとか」
「ええ、ええ。そうらしいのです。私はまだ確認しておりませんが、こちらの美神《みかみ》がそれを見つけた、らしいのです」

 町長が手招きをすると、関西弁をしゃべる自治会長が前に出てきた。厳密に言えば死体を見つけたのは彼ではないが、なぜか彼が見つけたことになっていた。

「ええと、それでは美神さん。発見現場までご案内いただけますか?」
「ええ。こちらです」

 自治会長の美神と、5人の警察官、駐在さん、そして本当の第1発見者とともに、死体があるブルーシートで囲まれた場所へと向かった。
 雑木林の中に入ってからしばらく進むとその場所があり、ブルーシートが明らかに異様な光景を放っていた。

「ここですか?」
「はい」

 神埜という警察官が、他の4人に指示を出してブルーシートを外すと、そこには確かに死体があった。

「ここには、他に誰か?」
「ええ、見張りをするためと、ブルーシートを設置するために何人かが行き来しました」
「全員を呼ぶことは出来ますか?」
「ええ、可能です」
「では、お願いします」

 美神に昨日から今日にかけてここに来た人全員を集めることになった。集合する間に、神埜は本署に連絡を取り鑑識を呼んでいた。
 鑑識が来るまでは現場保全の為に、一度その場を離れて再び運営テントへと戻ることになった。運営テントへと戻ると、すでに何人かが集まっており、彼らが戻ってくるのを待っていたようだった。

「お早いですね」
「ええ。一応、昨日の段階で明日もここに集まってください、と伝えておりましたから」
「ふむ。それでは皆さん、これから事情聴取を行います。駐在所で行いますので、お手数ですがそちらまで移動をお願いします」

 神埜がそう伝えると、駐在さんと2人の警察官が関係者を駐在所へと連れて行った。それと前後する形で、鑑識と刑事が現場へと到着した。数人の刑事は、事情聴取を行う駐在所へと向かい、残った刑事は鑑識、神埜、美神、第1発見者とともに現場へと向かった。

「うっ。思ったよりも、惨たらしいですね・・・・・・」

 遺体を見て、1人の刑事が口に出した。他の人たちはなるべく見ないようにしているので、そこまでではないが、実際に見てしまうと夢に出てきそうなほど惨たらしい死体であった。

「しっかし、ここまでするかねぇ」
「四肢切断だけではなく、陰茎に首まで、ですか」
「猟奇的すぎるだろ・・・・・・」

 前回に続いての説明になるが、発見された死体は四肢が切断されており、それだけではなく、首や陰茎といったものも切り取られている。つまり、この場には首から下の、両腕両足のない胴体部分の死体しかないのだ。それ以外にも、体中に自分でつけることの出来ないような切り傷などが大量にあった。

「どうですか、三池さん」
「解剖に回してみないとわかりませんが、亡くなってからすで2日は経っているみたいです。それと、現場の遺留品の少なさから、殺害現場はここではないと思われます」
「なるほど」

 死体の周りには、遺留品が全くといっていいほど残っておらず、身元が証明出来るような免許証のようなものもなかった。また、美神たちの足跡は多数残っていたものの、争ったような形跡は一切見られないことからも、殺害現場はここではないと考えられた。

「では、遺体は石動警察病院へ搬送し、司法解剖と検案を行います。詳しいことがわかり次第お知らせします」
「ええ、お願いします」

 数人が担架を持ってきてそこに死体を乗せて、その上からブルーシートをかぶせて雑木林の入り口付近にある車に入れて、石動警察病院へと搬送されていった。それを見届けたあと、刑事が美神たちの方へ振り向き、質問を投げかけてきた。

「石動署の織田です。第1発見者は美神さん、でしたっけ」
「あ、いえ。第1発見者は、こっちの琴吹ことぶきです」
「あなたが」
「は、はい」

 織田刑事が、美神に紹介された第1発見者の琴吹の方を向いた。回りにいた刑事たちも琴吹の方を向くと、各々が手帳を取り出してメモを取る準備を始めた。
 現在使われている警察手帳は、手帳とはいうものの、一昔前に使われていた身分証一体型の警察手帳と違って、手帳としての役割を持たないため、別途メモ用の手帳を持ち歩く。

「発見時の様子を教えてくれますか?」
「はぁ。ええと、雑木林の中を歩いていたら、何かに躓いて倒れ込んでしまったんです。それで、何に躓いたのかと思って立ち上がり、見てみたら」
「死体だったと」
「ええ、そうです」

 刑事たちは、メモを簡単にではあるが取りながら、色々と矢継ぎ早に聞いていった。雑木林で何をしていたのか、なんで雑木林の中に入っていったのか、などなど。

「人が見えたんです」
「人、ですか?」
「ええ。休憩してて、ふと雑木林の方を向いたら、こちらをジッと睨み付けてくる人が見えたんです。それで、私が驚いていると、向こうも私が見ているのに気がついたのか、顔をそらしてそのまま雑木林の中へと消えていったんです」
「人相や服装などは見てないんですか?」
「ええ、すいません・・・・・・」

 色々と聞き取ってメモを取ったあと、一行は雑木林から一度出て、運営テントへと戻った。テントへと戻ると、駐在所へと向かった刑事たちと他の人たちも戻ってきていた。が、第1発見者である琴吹はともかくとして、他の人たちからこれといった証言を取ることは出来なかった。

「ではみなさん、ご協力ありがとうございました。今日は、ひとまずこれで終わりとなります。今後、お話をお聞きしにいくことがあるかもしれませんので、その時はご協力をお願いします」

 織田刑事が頭を下げると、その場で今日は解散となり、昨日の続きをするために持ち場へと散っていった。

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