流し人形

白河よぞら

第5話 祭りの準備Ⅳ

 同日、轟木町、昼過ぎ。
 俺と父さんは、祭りの設営を手伝うために、祭りの運営テントへと向かった。人形は集会所へと集められるが、それを置くスペースを少しでも確保するために、祭りの設営や運営は、別途テントを張ってそこで行われることになっていた。
 運営用のテントは、よく町内会や学校の運動会で見られるようなテントで、デカデカと「轟木町々町内会」と書かれていた。

「修也、この骨組みを向こうへ持って行ってくれ」
「うん」

 父さんに言われ、運営テントの横に置いてある骨組みを一式を、川から少し離れたメインとなる通り道の一角に行った。正直、子ども一人で持つには重すぎるが、何回かにわけて運んだ。

「おー、ありがとう、修也。じゃあ、テントは父さんが組み立てるから、運営テントのところに行って、他に何か手伝うことがないか聞いてきてくれないか?」
「うん」

 父さんが、テントに張る天幕を持ってきた。慣れたような手つきで骨組みを組み立て始め、テントの設営を始めた。
 父さんがテントの設営準備を始めたので、俺は言われた通りに運営テントへと戻り他にやることがないかを聞くことにした。

「おじさん」
「ん? 君は・・・・・・」
「緑川修也です」
「ああ、ああ。俊蔵さんところの。どうしたんだい?」
「何か、お手伝いすることはありますか?」
「え、うーん。そうだなぁ・・・・・・」

 その申し出に驚いたのか、顎に手を当てて考え込んだ。それもそのはずで、周囲を見てみても、俺と同じくらいの中学生で手伝っている人は見かけない。働いているのは大人ばかりである。

「あ。それなら、俊蔵さんところに行って、出来上がった人形を引き取ってきてくれないかい? 今日の分をまだ貰ってないからね」
「じいちゃんところ? うん、わかった」

 そう返事をすると、俺はじいちゃんが人形を作るためにこもっている作業小屋へと向かった。
 集会所に置いてある人形の大きさから考えるに、手だと一度に1個か2個くらいしか運べないため、台車を借りてきた。これなら、少なくとも10個はまとめて運べるはずである。

「じいちゃーん」
「おうおう、修くんか。どうしたんだい?」
「おじさんたちが、人形を集会所へと運んでくれって」
「そうかい。それなら、中に入りなさい。玄関のところに人形は置いてあるからね」

 俺は、作業小屋の扉をノックした。すると、扉がガラッと開いて中からじいちゃんが出てきた。じいちゃんに促されて小屋の中に入ると、小屋の中は外に比べると寒いくらいで、じいちゃんは厚着をしていた。
 じいちゃんに言われたとおり、小屋に入ってすぐの玄関脇に、今日の午前中にじいちゃんが作ったと思われる人形が、箱に入っておかれていた。人形が入った箱を持ち上げると、部屋の温度のせいなのか、箱がひんやりと冷たかった。
 箱を一個ずつ丁寧に台車に乗せて集会所へと運んだ。集会所の中もひんやりとしており、外に比べると寒く感じるほどだ。俺は、箱を一個ずつ丁寧に保管場所に置いていった。

「ふぅ、こんなもんかな」

 何回か往復して人形を集会所へと運び込んだ。集会所も作業小屋もそれなりにひんやりとしているため、中と外を行き来すると、外に出ると暑く感じ、逆に中に入ると寒く感じた。

「よし。じゃあ、おじさんのところに報告へ行こうかな」

 運営テントのところへ戻ると、おじさんたちがザワザワとしていた。大人たちが何人か集まり、その中には父さんの姿もあったので、急いで駆け寄った。

「どうしたの、父さん」
「あ、ああ、修也。実はな大変なことになったんだ」
「大変なこと?」
「おいおい、本当かよ」
「ああ、間違いない」

 父さんと話していたら、周囲の人たちがさらにザワザワしてきた。一体何があったのか気になったが、父さんや他の人に、気にすることはない、と言われ、とりあえずそのまま家へと帰るように言われたので、ばあちゃんと一緒に家へと帰ることにした。

「ねぇ、ばあちゃん」
「なんだい、修ちゃん」
「ねぇ、何があったの?」
「・・・・・・さぁ、何があったんだろうねぇ」

 俺の質問に、ばあちゃんは少し黙ったあと、何かを誤魔化すように言った。正直、気になるといえば気になるが、どうせ後でわかることだろう、と思い、それ以上聞くのをやめることにした。
 家へ帰ると、どこかへ出かけたのか、家でゆっくりしているはずの母さんの姿がなかったが、しばらくすると買い物に行っていたのか、スーパーのビニール袋を持って家に帰ってきた。

「あ、お帰り。母さん」
「ただいま。どうしたの? 早いわね」
「うん、何かあったみたいで、今日のところは帰っていいって言われたから、帰ってきた」
「へぇ、そうなんだ。あれ、お父さんは?」
「残るって」
「ふーん、そう」

 それから時間が経ち、19時を回ったあたりで父さんが帰ってきたので、夕ご飯を食べてから何があったのかを聞くことにした。

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