オルトロス・ノエル

つかっちゃ

過去の過ち

「君、人間じゃないよね?」


ケイティ学長は妖し気な微笑を浮かべてシモンと立って向かい合った。
学長は長身なので、160cm程の身長のシモンは少し見上げる様に目線を合わせた。

「───なぜ、そう思うのですか」

普段無口だからか発した声はか細く聞こえるが、その声には凛とした筋が通っていて静かな部屋に響いた。

俺は学長の「人間じゃない」という言葉に意味がわからなかったので静観を決め込んでいた。

二人は互いの腹を探り合うような視線を向けあっていた。


「まず、そう思う理由その一。闇魔法って人族には発現しにくいからさ。闇魔法は強力故に体が持たない。発現したが最後、人族は魔法の器として耐えきれずに死ぬ」

魔力測定のあの時の黒い靄は闇魔法の印だったのか。

「……それだけでは理由不十分では?」
「なら理由その二。────君、気づいてないかもしれないけど、今魔眼発動してるよ??」
「なっ…!!」

シモンはしまったとばかりに右目を押さえた。それを見た学長はニヤリと、敵将の首を討ち取ったが如く悪そうな笑みを浮かべた。

「残念、引っかかっちゃったね〜」
「!!!!」
「只のブラフ。それとごめんね、私、魔法で魔眼みたいな事が出来ちゃうからさ、君が魔眼持ちで、吸血鬼だって言うことに最初から気付いてたのさ」
「!!!!!!」


少し悪そうにする学長に、シモンはヤケクソとばかりに右手を伸ばすと、何もない空間から漆黒の巨大な鎌を取り出した。それを俺が止める間もなく見えない程の速度で振り抜いた。

真っ二つにされた学長を想像したが、学長はその大鎌を何処吹く風とばかりに左手一本で受け止めていた。そして人当たりの良い笑顔を向けると、

「うん、やっぱり君もクリスタル決定だね!」

そう口にすると同時にシモンの鎌は砂になる様に、サラサラと空間に溶けていった。
シモンも溜飲が下がったのか、少し項垂れると小さく口を開いた。

「……貴方は、なぜ僕が魔族である吸血鬼だと言う事に気づいていて、何もしないのですか」
「…??言ってる意味がちょっと良く分かんないけど?」

「だから!私は魔族なのですよ?!人族からは忌み嫌われる存在の筈だ!!」


魔族。
人間の見た目で身体のどこかに魔獣と似通った部位を保有する種族。仲間意識に強く、ずば抜けた身体能力と魔法のセンスを持つ優れた種族である。


魔族と人族は嘗て互いに手を取り合い、それぞれの領土で繁栄し豊かな土地を築いて居たらしい。
しかし約1000年前に、魔族が当時の魔王の能力で無理やり人族の領土に侵攻し世界各地で戦争が勃発した。その結果魔族側も人族側も決して癒えない傷を負った。
魔王は人族によって倒されが、人族は魔族を憎み、迫害した。
魔族側も自分達の王を止められなかった責任感から人族の目につかない世界の果てに移り住んだと言う。


「……たった1000年。我ら魔族が行った事はそれだけの期間で赦される事では無い筈です」


シモンは俯きながら問うた。
しかし学長は慈愛を多分に含めた笑みを浮かべた。

「1000年という時間は、魔族にとっては短いものかもしれない。しかし人族にとっては決して短く無いのさ。それに人族だって分かっていたのさ。あの出来事は魔王が悪かっただけで、他は操られていたに過ぎない事を」

学長はゆっくり部屋を歩き話しつつ、自分の席に座ると、外の町並みを見ながら紅茶を一口飲んだ。

「頭では分かっていた。でも感情が許してはくれなかった。只の八つ当たりだったのさ」

愛する人を、大好きな街を、大切な物を不当に奪われた。
それが幾ら不可抗力だったとしても、感情をぶつける事のできる相手ならばそうなってしまうのも必然。
だったとしても。

「────遅ればせながら、私が代表して言うよ。魔族を長い間迫害し、追い詰めてしまっていた人族にも非はあった。本当ならもっと早くに、仲直りが出来ていた筈なのに。頑なになっていたこちら側も悪かった。────すまなかった」

学長はシモンの目を見て、そして頭を下げた。
シモンもそんな学長を見て下唇を噛んだ。

「そもそもは王を止められなかったこちらが起こした不祥事。人族に非は無い。貴方達にはその権利があったのです。改めまして、お詫びをさせて頂きます。……本当に、申し訳ありませんでした」

シモンも頭を下げた。


そんな二人の様子を俺は棒立ちになって離れた場所で見ていた。
その光景が、とても儚く、尊いものに見えた。




後日、学長がこの事を国王に伝え、国中に伝令が回された。


『魔族との関係を復活させる。どうか、過去の出来事を水に流し、共存する道を進んでは行かないか』

────と。
そして魔族側にはシモンを通じて国王直々の文書を発表した。


『我ら人族の過去の過ちを許してほしい。まだ、手を取りあえると少しでも思ってくれているのならば。申し訳無かった』



こうして、魔族迫害も無くなり、人族領に昔の様に魔族がちらほら見えるようになった。


小さなきっかけで仲違いを直せるほど、彼らは互いを想っていたのだった。







そしてなんやかんやあって。



「えー………今回は転入生?を紹介する。入ってくれ」

担任のリューク先生は複雑そうな顔をしていた。それもそのはず。

「────シモン・ヴァンペールです。種族は魔族で、吸血鬼です。改めて、よろしくお願いします!」


クラス全員の前に立っていたのは、これまでの長い黒髪で顔を覆うようにしていた髪を後ろに綺麗に纏め、隠れていた美形な顔を晒すシモンの姿があった。











ちょっと書いてて良く分からなくなりました。どうもつかっちゃです。

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