オルトロス・ノエル

つかっちゃ

朝の運動

教室に向かうとまだ少し早い時間だったが既に数人来ていた。
この学園は寮制なので2年3年と時を重ねれば友人とゆっくり登校する生徒が多いのだが、まだ入学式の次の日と言うことでまだ友人が居ない生徒が早々と来ている様だった。

かく言う俺も生まれてこの方友人など居た記憶も、親しくなった人間も居た記憶が無い。強いて言うなら学園長は手を差し伸べてくれた、それだけだった。


昨日と同じ窓側の一番左の後の席に座ると、持ってきている教科書類を机に広げ予習を始めた。
昨夜も寝る前に多少勉強はしたのだが、如何せん社会に触れる機会がほぼ無かったせいで分からない所だらけだったのだ。

だからまあ、昨日の今日で見返してもほぼ進展は無く。

朝の早い時間ではできる事も限られている訳で、机に肘を立てて何となしに外の風景を眺めた。
シルバークラスは体術メインのクラスなのでグラウンドに一番近い。朝日に照らされるグラウンドにはある程度生徒が運動をしていた。

まだ授業が始まるまでは1時間近く時間が残っているし俺もグラウンドに出るかな、そう考えて席を立つと丁度声を掛けられた。

「──おや、君は確か……そう、ノエルだったか。早い時間から来て予習とは勤勉だね」
「そういうアンタは…確かイスナーンだったな」

短く切りそろえられた銀の髪、清潔感のある凛々しい姿をした男子生徒、イスナーンが俺の横の席に座った。

「今席を立とうとしていた様子だったけど、もしかしてグラウンドに?」
「ああ。少し早く来すぎたから始業までは体を動かそうか、とな」
「それなら俺に付き合ってくれないか?」
「得物は?」
「剣だよ。そっちは?」
「同じく剣だ」
「なら決まりだな」

イスナーンはそう言って笑った。




グラウンドに向かうと、早速二人で木剣を構えて対峙した。

「運動着に着替えている時間も惜しい。始業まで時間もそんなにある訳じゃないから軽くやろうか」
「ああ」

初めて体験する同い年の奴の剣の力を知れる、しかもこの名の通る名門校に来る生徒の力。
同じ剣士と言うことでワクワクが止まらない。


「では────っ!」

最初に動いたのはイスナーンだった。ブレの無い、清流を思わせる滑らかな太刀筋は迷い無く俺の胸元に吸い込まれる。
だが目で追える速度だ。
手にした木剣を右に薙いで剣を弾くと彼は若干目を見開いた。俺はそのまま切り返し、薙いだ時の勢いに更に力を加えてイスナーンの左脇腹に切り込む。

だがイスナーンもそれを剣の柄と刃先を握り縦向きに構える事で俺の剣を防いだ。
しかしそんな物は想定済みだ。防がれた剣をそのままするりと滑らせて、伸ばされた腕と胴の間に入れ、軽くイスナーンの脇腹に当てた。

「一本な」
「……まさかあの初撃をしっかり受け止められるなんて。あれでもそこそこの速度で振り抜いたつもりだったんだけど」
「そんな子供騙しが俺に通じるとでも?」
「俺もまだまだだね」

いい感じに体が温まった丁度その辺りで5分前の予鈴が鳴った。





イスナーンのあの初撃が、実は殆どの生徒が対応できないほど正確で速い斬撃だったのだが、この時の俺はこれが普通なのかと勘違いして思い込んでいたのに気づくのはまた別の話である。

「オルトロス・ノエル」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く