オルトロス・ノエル

つかっちゃ

ターニングポイント

首と体の2つに分断された姿を見た貴族達は騒然となった。

決闘とは言え殺してしまうのはルール違反なのだ。


俺も反射での事だったので自分でも何をしたのか理解するのに数秒かかった。



地面に転がるジュディに目を降ろし────────違和感に気づいた。
それは、騒いでいた貴族達も気づいたようで。

「血が、出ていない?」

腕を切られたときにもそうだったが血が出ていなかった。
どういう事だとジュディに近づこうとすると。


「───“ミラージュ・フォルコ”。光と土と火と風の魔法の複合で作られる僕のオリジナル魔法さ♪」

後ろから耳元で囁いたのは紛れもないジュディ。
俺は突然現れたもう一人のジュディ、いや本体のジュディに驚き飛び退いた。

ジュディはにこにこと一見すると人懐っこい笑みを溢しつつ指を弾くと、地面に転がっていたジュディだったものがサラサラと崩れ落ちた。


こんな魔法は聞いたこともないし、見た事もない。


それはノエルが単純に学ぶ機会が少なかった事ではなく、英才教育を受けている筈の貴族でさえ刮目する魔法だった。
そんな視線を受けてもジュディは飄々とした態度を取っていた。

「ノエルはもう忘れたのかな?僕の能力スキルの事」
「………魔法創造クリエイションか」
「正解!いやぁ、このスキルは本当に使い勝手のいいスキルだよ。まあその力故に発現にも使いこなすにもかなりの時間が必要だったけどね」

これは後に知った事だが、ジュディは全属性適性オール・アトリビュートは小さい頃から取得していた。しかし魔法創造は今から丁度2年前、つまり14歳の誕生日の日に漸く発現したらしい。


これまでの自分の努力を振り返っているのか少しだけ感傷的な目をしたがそれも一瞬、またいつもの爽やかな笑顔に戻る。

「確かに、ノエルは力が無いなりに努力したほうなんじゃないかな?でもね、努力だけじゃ埋まらないんだよ。僕と君は決定的に違う事がある」
「………」

「それはね。才・能・さ♪」

そのセリフを皮切りに俺はジュディに一気に踏み込んだ。速度はさっきよりも上の筈だ。これまで死ぬ程努力をして来た剣だ。鋭い一撃はジュディの胴体に届くと思われたが────


その剣はジュディが前に出した杖にしっかりと受け止められた。
明らかに俺の方が力は上の筈なのにジュディはびくともしない。そこで俺は気づいた。

「身体強化か………!」
「あたり!これが本当の身体強化の魔法さ!」

ジュディはそう言って受け止めてある剣を、なんと驚く事に空いている右手で鷲掴みすると、まるで粘土を握る様に握り潰してしまった。
俺はその光景に目を取られた。

「ノエルの剣は軽い。軽すぎるんだよ。身体強化のレベルが違う。そんな紛い物の強化なんか────拳一つで十分なのさ」


唖然としていた俺の空いた胴に、瞬間移動してきたのかと思うほどの速度で迫っていたジュディの拳が埋まる。
目視すら許さない。
そんな圧倒的な速度で振りぬかれた拳に成すすべなど無い。





俺の意識は、そこで途絶えた。











******************






──今後ヴァンスターの姓を名乗ることを禁ずる──



適当に書き殴られた何かの書類の切れ端が一番最初に目についた。
気を失っている間にどうやら俺は勘当され、どこかの森に投げ捨てられていた様だ。

空を見ると既に黄味がかっていて、夕方なのは分かった。

ふと自分の身体が目に入った。決闘の時に着ていた服は剥がされ、ボロ布一枚しか纏っておらず、殴られた辺りがまだズキズキと痛む。恐らくは骨も数本折れているのだろう。呼吸をする度に痛む。

あの戦いを思い出すと、自然と頬が濡れて行くのが分かった。

天才的なまでのセンスを持つ弟、それに勝ちたくて幼い頃から始めた鍛錬の1つも通用しなかった。

もう一度、勘当の通知である紙を見た。そして、理解した。理解してしまった。

あんな屑みたいな奴等だったけど。俺は。


「……アイツらに、認められたかった…………だけ、なんだなぁ…」

思わず口に出してしまったが、自分でも驚くほど情けない声で、それでいてすんなり心に響いた。

後から後から流れ出る涙も、嗚咽も、止まらない。


森の向こうに見える夕日が、その輝きが、今だけは憎らしく思った。











数日後、落ち着きを取り戻した俺は、する事もないので、やっぱり鍛錬をしていた。

そんな時、脳内にふと声が聞こえた。

『─君はこんな森の中で一体何をしているのかな?』

あの日からなんとなく空虚な俺は無意識にそのナニカと会話していた。

「さあな。俺は一体こんな所で何をしてるんだろうか」
『それを自分で言うのか。面白いねキミ。実は数日感君を見ていたのだけど、只管に剣を振っているよね。なぜ、そんな剣ばかり振っているんだい?』
「────俺にはもうこれしか残ってない」
『ふ〜ん?私はそうは思わないけどね?』 
「そうか。でも実際俺にはこれしか無い。魔法だって何一つ使えやしない。素質が無いからな」
『────』

殆ど無意識に受け答えて居たのだが、そのナニカの一言に俺は振っていた剣を落としてしまった。




「────いま、なんて?」
『だから、君は何を勘違いしてるのかな?君はこれまで類を見ないくらいに素質に溢れている。念話越しにだけど感じるその魔法力に私は震えているよ』
「そんな訳ない」
『嘘じゃないよ。最近話題の彼、確か名前は────そう、ジュディ・ヴァンスター。彼なんか目じゃないくらいだ』

ナニカの言うその言葉に、俺の中の何かがぷつりと切れた。


「そんな訳ない!!!俺は素質が無いから!!これまでの人生全てが屑みてぇな生き様晒してんだよ!!!これまでも!!これからもだ!!!!!」


何も知らないくせに偉そうにペラペラと。


そんな怒り狂うノエルにもナニカは飄々と言葉を発する。

『確かに君は大変だったかもしれない。だけどこれからの過ごし方でそれが変えられるとしたら?』
「変え……られる………だと…?」

漸く溜飲が下ってまともな思考に戻るとそいつの言葉に俺は釣られた。

『そう。もし君に、まだ上を目指そうとする意思が残っているなら────』


────ウチに来るといいよ。変われるかもしれない切符は渡した。それを如何するかは君次第さ!



そう脳内で木霊しながら消えていった。
そして目の前を見るとぼんやりと光る手紙が宙に浮遊していた。

恐る恐るそれを手に取るとこう書いてあった。






──国立サンドロス学園   紹介状──

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