オルトロス・ノエル

つかっちゃ

決闘、開始

翌々日。

その日の朝はやけに早く目が覚めた。
時計が無いから分からないが普段は5時半には起きているが今日は5時前なのだろうか。まだ空は薄暗い。

2日前の日、ジュディは俺に決闘(と本人は思っているかは定かじゃないが)を吹っかけてきた。時間は俺達が産まれた時間だと言う午前9時40分。

決闘までの残り4時間ほどは普段よりも軽めの鍛錬をしようと思っている。



と言ってもまだ朝は早い。日が昇るまでは何となく激しい動きは控えたいので魔法の鍛錬を始めた。

これまでは単純に体内にある固まりかけの水飴の様な魔力を解すように、ゆっくり、じっくりとそれをこねくり回していた。
12歳を越えたあたりから魔力がかなり柔らかくなり、体内での循環がより感じられるようになった。

でもやっぱり魔法は使えない。

そんな事はとっくに分かりきっていたことだ。ただ、一歩だけ前進している事も確かなのだ。
普通は何かの魔法が芽生えなければ絶対に使えない魔法が一つだけ使えるようになった。


身体強化。


魔法というのは直列になっていて、一つの魔法が使えなければそこから枝分かれしている、並列に繋がっている派生の魔法は使用できないとされている。
しかし、俺は擬似的に派生魔法である身体強化を使える様にまで魔力を高めた。

そう、あくまで擬似的なのだ。だから反動がかなりくる。

魔力を全身に無理やり引き伸ばして筋肉の一つ一つを覆い、無理やり強化しているだけなのだ。魔法が使えない為かそれだけの事がかなりの苦痛となる。


例えるなら普通の魔法使いが身体強化をする事が川の流れに沿って船で下る様な物なら、俺の疑似身体強化は激流を体一つで平泳ぎで逆らうように泳ぐ、そのくらいの負担がかかる。


その結果、普通の魔法使いが平均5時間は掛け続けられる強化魔法が俺は3分と持たない。

だから、今日の決闘は短期決戦に持ち込もうも思う。
魔法が本来使えない筈の俺が擬似的に身体強化を使えるのは誰も知らない筈だ。

ジュディは俺が単純に剣術しかしていないと思って舐めてかかってくるであろうその隙に付け入るしか勝機は見えない。

俺がこれまでの人生で身につけた唯一の武器だ。

絶対にミスはできない。






******************








午前9時40分。



「これより、ジュディ様とノエルの決闘式を執り行います!」


屋敷はかなりの人で溢れていた。
それも貴族ばかり。

父アランは今日のこの決闘はこれから学園に通わせる自慢の息子の実力を披露するいいチャンスだと思い、様々な貴族を呼び集め半ばパーティになっていた。


俺とジュディはその貴族達の中心の、特注で張られた結界の中に立っていた。


「今日は逃げ出さずに来てくれて感謝するよ。僕の実力を周りに公開できる日を今日か今日かと待ちに待った。それが誕生日だなんて僕はついているね。惜しむらくは相手がノエルだったのが残念だよ」
「……悪いが負けるつもりは毛頭ない」
「アハハッ!そうそう、そうこなくっちゃ!すぐにくたばってもらっちゃこっちの力の披露が出来ないからね。あ、でも安心して、殺しはしないから♪ギリギリ死なない程度に嬲ってあげるよ♪」
「その油断が、仇にならなければいいな」
「心配してもらうほど僕は弱くないよ♪」



それまでざわついていたオーディエンスは二人の会話が終わったと見ると、見に来ていた貴族達は息を潜めた。 

いい頃合いだろうと審判役をしている使用人が声を上げる。


「────決闘────────始めっ!!」


審判の声が上がると同時にジュディは口を開こうとした。
しかし、その一瞬を俺は逃すはずが無い。

詠唱さえさせなければ基礎筋力の高い俺のほうに軍配が上がる。

俺は一瞬で局所的に魔力を集め、固定した。
腕と脚を重点的に強化し、それこそ爆発的な勢いでジュディの背後を取り、目にも留まらぬスピードで剣を振り下ろし、杖を持つ左腕を切り落とし────。




ジュディは顔だけこちらに向けニヤリと嗤うと、切り落とされた左腕を持ち上げ、元あった場所にひっつけた。
そして少し右腕で捻るように取り付けたかと思うとなんと左腕が何事もなかったかのように動いた。

流石にその光景に目を奪われたちつくしてしまった。

それは見に来ていた貴族達も同様で、唖然としていた。

ジュディはそんな貴族を余所に何でも無いかの様に振る舞った。

「どうだい?僕の魔法は。ノエルが森で鍛錬してる間に僕が怠けてるとでも思った?」
「……バケモンが……!」
「ふふっ!でもこっちも驚いてるよ。なにせ魔法が使えないはずなのに無理やり魔力を全身に張り巡らせて強化魔法を再現・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・してるんだから」
「ッ!!!」


タネが一瞬で見抜かれてしまっていただと!?


俺はその焦りで効果が切れてしまう前に攻撃をしなければと、反射で動いてジュディに肉薄すると剣を横に凪いだ。


ジュディはそれを視認できて居ないのか何もせずに立ち尽くしたま。




凪いだ太刀筋はジュディの首に吸い込まれ────その体を2つに分断したのだった。

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