オルトロス・ノエル
能無し
「───なにも見えない、だと?」
父アランも流石に眉を顰めた。
何せ何も表示されずに見えなかった、という事例は前代未聞なのだ。
どんな人間にも必ず一つは何かしらのスキルを持つ。
例えば小さな頃から続けているものがスキルとして表示されたり、得意な事が出たりする。
なのにノエルには何も出なかったと言う。
“何も表示されない”という言葉に一番ショックを受けたのは紛れもない俺自身だ。
これまで剣術も我流だけどちゃんと訓練もしてきたし魔法だって使えないからと鍛錬を疎かにした経験もない。
ギリッと思わず歯を食いしばった。
悔しかった。只々悔しかった。
あれだけ毎日やっていてもまだ俺にはなんの力も無いと言うのか。
毎日魔力を限界まで練り上げ、体に関しては家に帰りつけるだけの最低限の体力だけ残して全て振り絞った。
なのに、だ。
そんな俺の内心なんぞ知る由もない優秀な弟は呆然としている俺を押しのけ「次は僕の番だ。能無しは退けよ」とすれ違いざまに耳元で囁いてきた。
鑑定士達も気を取り直して今度はジュディを鑑定し始めた。
すると今度は俺の時とは違う様子の困惑をし始めた。
「ジュディはどうなんだ?」
アランも優秀な息子の事は気になるのか困惑している鑑定士達に“さっさとしろ”と言外に急かしていた。
少しすると鑑定士達の内の一人が前に出て口を開いた。
「ジュディさんの鑑定結果────スキルは2つ取得出来る様です」
殆どの人間が一つしか持っていないスキルを2つ取得できるというだけで将来はほぼ約束されたようなものだ。スキルを1つしか持たないアランもそれには目を見開いた。
「して、その内容は?」
「はい。最初に取得できるのは“全属性完全適正”です」
「なっ!?!?そのスキルはもしや────」
「──はい。かの勇者も持っていたとされるスキルです」
全属性完全適正。
普通、殆どの人間が全ての魔法を鍛錬して扱う事ができるが、スキルを持たない者は最低限の魔法、下級の中でも低いレベルでしか魔法を扱う事ができない。
しかしジュディのこのスキルは火、水、風、土、光、闇の全ての属性を高いレベルで扱う事ができるのだ。
「そ、それでもう一つのスキルは…?」
「………“魔法創造”。………これまでに確認されたことの無いスキルです」
「魔法創造……?!」
「内容までは分かりかねますが、恐らく名前の通り様々な属性を組み合わせ、オリジナルの魔法を作り出すことが可能……なのだと思われます。確証はできませんが」
そう語る鑑定士の言葉を一つ一つ理解し、アランは思わずジュディに抱きついた。
「お前は素晴らしい…!我が家の誇りだ!!」
「父上………!」
なんと美しい家族愛だろうか。
俺は茫然自失としつつ傍目に二人が目に入った。
───そうか。今分かった。
俺は確かに優秀な弟に負けたくなくてこれまで頑張ってきた。でも本当は────本当は、父に、母に、俺という存在を認めてもらいたかったのか。
抱き合う姿を見て、無意識に一筋の雫が頬を伝った。
俺には持っていない物をすべて兼ね備える弟に、心底嫉妬した。かと言って俺が持っているものをジュディが持っていないのかと言われれば否だ。寧ろ俺が持っているものもジュディは全て持っている。
俺に、一体この家でどれ程の価値があったのだろうか?
“穀潰し”。
毎日耳に入って来る罵詈雑言の中でもよく聞く単語だ。
ははっ、俺にピッタリじゃないか。
ずっと立ち尽くしている俺を使用人が無理やり引き摺る様に馬車の荷台部分に無理やり詰め込むと、パシッと鞭で叩くような音が聞こえ馬車が発車した。
荷台なので屋根も何も無い。
空は青く澄み渡って、真っ白な雲が浮かぶ。そんな景色は段々と色を失い、やがて俺の世界から全ての色が無くなりモノクロの世界が俺を包んだ。
人生の境目である素質鑑定の儀は、こうして幕を閉じたのだった。
父アランも流石に眉を顰めた。
何せ何も表示されずに見えなかった、という事例は前代未聞なのだ。
どんな人間にも必ず一つは何かしらのスキルを持つ。
例えば小さな頃から続けているものがスキルとして表示されたり、得意な事が出たりする。
なのにノエルには何も出なかったと言う。
“何も表示されない”という言葉に一番ショックを受けたのは紛れもない俺自身だ。
これまで剣術も我流だけどちゃんと訓練もしてきたし魔法だって使えないからと鍛錬を疎かにした経験もない。
ギリッと思わず歯を食いしばった。
悔しかった。只々悔しかった。
あれだけ毎日やっていてもまだ俺にはなんの力も無いと言うのか。
毎日魔力を限界まで練り上げ、体に関しては家に帰りつけるだけの最低限の体力だけ残して全て振り絞った。
なのに、だ。
そんな俺の内心なんぞ知る由もない優秀な弟は呆然としている俺を押しのけ「次は僕の番だ。能無しは退けよ」とすれ違いざまに耳元で囁いてきた。
鑑定士達も気を取り直して今度はジュディを鑑定し始めた。
すると今度は俺の時とは違う様子の困惑をし始めた。
「ジュディはどうなんだ?」
アランも優秀な息子の事は気になるのか困惑している鑑定士達に“さっさとしろ”と言外に急かしていた。
少しすると鑑定士達の内の一人が前に出て口を開いた。
「ジュディさんの鑑定結果────スキルは2つ取得出来る様です」
殆どの人間が一つしか持っていないスキルを2つ取得できるというだけで将来はほぼ約束されたようなものだ。スキルを1つしか持たないアランもそれには目を見開いた。
「して、その内容は?」
「はい。最初に取得できるのは“全属性完全適正”です」
「なっ!?!?そのスキルはもしや────」
「──はい。かの勇者も持っていたとされるスキルです」
全属性完全適正。
普通、殆どの人間が全ての魔法を鍛錬して扱う事ができるが、スキルを持たない者は最低限の魔法、下級の中でも低いレベルでしか魔法を扱う事ができない。
しかしジュディのこのスキルは火、水、風、土、光、闇の全ての属性を高いレベルで扱う事ができるのだ。
「そ、それでもう一つのスキルは…?」
「………“魔法創造”。………これまでに確認されたことの無いスキルです」
「魔法創造……?!」
「内容までは分かりかねますが、恐らく名前の通り様々な属性を組み合わせ、オリジナルの魔法を作り出すことが可能……なのだと思われます。確証はできませんが」
そう語る鑑定士の言葉を一つ一つ理解し、アランは思わずジュディに抱きついた。
「お前は素晴らしい…!我が家の誇りだ!!」
「父上………!」
なんと美しい家族愛だろうか。
俺は茫然自失としつつ傍目に二人が目に入った。
───そうか。今分かった。
俺は確かに優秀な弟に負けたくなくてこれまで頑張ってきた。でも本当は────本当は、父に、母に、俺という存在を認めてもらいたかったのか。
抱き合う姿を見て、無意識に一筋の雫が頬を伝った。
俺には持っていない物をすべて兼ね備える弟に、心底嫉妬した。かと言って俺が持っているものをジュディが持っていないのかと言われれば否だ。寧ろ俺が持っているものもジュディは全て持っている。
俺に、一体この家でどれ程の価値があったのだろうか?
“穀潰し”。
毎日耳に入って来る罵詈雑言の中でもよく聞く単語だ。
ははっ、俺にピッタリじゃないか。
ずっと立ち尽くしている俺を使用人が無理やり引き摺る様に馬車の荷台部分に無理やり詰め込むと、パシッと鞭で叩くような音が聞こえ馬車が発車した。
荷台なので屋根も何も無い。
空は青く澄み渡って、真っ白な雲が浮かぶ。そんな景色は段々と色を失い、やがて俺の世界から全ての色が無くなりモノクロの世界が俺を包んだ。
人生の境目である素質鑑定の儀は、こうして幕を閉じたのだった。
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