オルトロス・ノエル
プロローグ 優秀な弟を持つ兄
「まぁ!流石はジュディ様、齢6歳にして上級魔法であるイグニッション・フレアを同時に発動させるとは…!」
「ふふん♪この程度の魔法、手遊びにすらならないよ」
使用人の一人がジュディの魔法を見て感嘆の声を溢している。
その少し離れた場所には得意げに5mの火球を2つ軽々と発動させている弟ジュディを傍目に俺はいつも通り一人で森に入る。
その時にいつも聞こえてくる使用人の「それに比べてあれは……」という忌々しそうにこちらに掛けてくる声をさらりと無視し、少し歩いた場所に自分で作った魔法の練習場所に来る。
辺りは木々や草花が鬱蒼と生えるほぼ藪の中に立つと、魔力の流れを掴む。
集中すると少しずつ世界から色が抜け落ち辺りの環境音も遠のき、的となる木と自分しか存在しない空間が目の前に広がる。
───あっ、今日は良いかも
そうして俺は右手の平を前方に向けると魔法発動の為に魔法名を口にする。
「フレア」
ごく稀に起きる空間に溶け込むようなその集中力に反して、いつも通りなんの反応もない。
前に広げた手の平にはなんの変化もないし、周囲にも変化はない。広げた手の先には蝶が止まり、少しずつ色褪せた世界から帰ってくる。
「………やっぱり、魔法にならないな…」
そう。俺ことノエルは魔法が使えない。
魔力は感じる事ができるがいつもそれ以上の事が出来ないのである。
なのでいつも通り魔力を粘土のように練って少しでも魔法を使える様になる為の訓練を終わらせると、近くの木に立てかけてあるお手製の木剣を手に取り素振りを始めた。
ノルマである6000回の素振りをおよそ4時間程かけて済ませると、少しの休憩を挟んで今度は筋肉を鍛える為の訓練を始めた。30mの距離を背中に丸太を数本背負って体力の限り往復したり、基礎的な腕立て伏せや腹筋等も筋肉の限界まで行う。
俺はこの訓練の時間が何よりも好きだ。家に居ても延々と嫌味を聞かされるし。
そうして朝から夕方まで一人で訓練し、帰路につく。
森を抜け、庭に目をやるとつい先程まで弟も魔法の練習をしていたようだ。
あいつはずば抜けた才能もあるが、魔法を使うことに関してはストイックで自分が満足するまで練習し続ける。
なので最上級魔法にもあと一歩という所まで到達している。
性格は最悪だけどその一点に関しては尊敬する。
本当に、双子でなぜここまで才能の差が出てしまうのだろうか…
俺とジュディは双子でありつつ見た目がかなり違う。ジュディはサラサラとした金の糸のような髪の毛で、俺は色の抜けきった様に真っ白な色をしている。
その魔法が使えない事と容姿のことで「あいつは髪の毛の色と一緒に魔法の才能も抜け落ちたのか」と両親にも言われる始末で、少しだけ気にしている────が、皮肉にも少なくとも顔面は良い方らしく一度使用人達が「愛玩奴隷として売って金にしたほうがこの屋敷の為にもなるのでは無いか」と割と真剣に話してるのを目撃した時は少しだけ震えた。
門をくぐると正面いっぱいに広がる大きな屋敷に夕日がグラデーションを作る。この家専用庭師が整える観賞用の庭の方には大きな噴水と池が広がり、陽の光を浴びてキラキラと輝やいている。
なんとなく察してはいるだろうが、ウチは貴族だ。
しかも公爵である。
俺の家、ヴァンスター家は代々優れた魔法使いを排出し、宮廷魔法師団の団長を担っている。なので勿論父のアラン・ヴァンスターは現在の宮廷魔法師団団長で、二つ名を持っている。
“絶対零度・アラン”
父は氷魔法において大陸一と言わしめるほどの実力を持ち、戦況を見て出す支持の正確さ、敵には冷酷なまでの行動、それらすべてを踏まえて堂々の団長の座である。
その存在は王国に広く知られており、と言う事は勿論その息子である俺とジュディの事も知られている。
ジュディはアランが大絶賛するほどの鬼才を持ち、普通5〜6歳になってやっと発動できる初級魔法を1歳で発動し、学園でようやく学べるようになる上級魔法も6歳にしてほぼ完璧に扱っている。そんな存在に民衆は「神に愛されし神童」「勇者の再来か」などと持て囃されている。
そして引き合いに出されるのは俺だ。
普通の子供なら何かの魔法が1つでも使える年齢にも関わらず未だになんの魔法も使えない事から「弟に全てを吸われた哀れな兄」「公爵家の穀潰し」「能無しノエル」などと好き勝手言われている。
まあ、そんな感じで俺はこれまで家でも肩身の狭い生活を、街に出ても変な称号を囁かれ、ひっそりと一人で鍛錬三昧の生活を送ってきた。
閑話休題。
鍛錬が終わるとまっすぐ家には戻らずに、庭の方にある湖に向かった。体中についた泥などを落とすためだ。
屋敷の風呂を使わせてもらえないのでこうやっていつもここで体を綺麗にしている。
生活に必要最低限の質素な服などは貰えるのでそれまで着ていた服も自分で洗い、人目のつかない場所にある洗濯物を干す為の場所に向かった。
屋敷の側を通っていると、いつも通り使用人達がヒソヒソとこちらを見ていつも通り嫌味を言ってくる。それもいつものように無視して歩いているとある使用人の話が聞こえてきた。
「そういえば丁度1年後、7歳になるジュディ様は“素質鑑定の儀”を受けられるのですね」
「ええ。きっと途轍もないスキルを見せてくれるはずです」
「……となるとアイツも受けるんですね」
「………ええ。幾ら能無しで嫌われているとは言え、鑑定を受けさせないとなると体裁的に弱みになってしまう可能性がありますからね」
「儘ならないものです。寧ろアイツを鑑定して恥ずかしい内容だったときの方が問題になりそうなものですが…」
「民達も全員アイツが落ちこぼれなのは既知のこと。その事は公爵様も理解しているはず。ですので来年2人共に受けるでしょうね」
そう。7歳になった子供は“素質鑑定の儀”を受ける事ができる。鑑定眼という特殊な目を持つ5人の鑑定士にその子供が持つ素質を見てもらうというシンプルな内容だ。
今はこんな魔法が使えない、鍛えた体の頑丈さだけが取り柄の俺も、もしかしたら何かの素質があるかもしれない。
そう思えばまだまだ頑張ることができる。
一年後に控えた鑑定の儀に向けて、俺は明日もまた限界まで鍛錬をするだろう。自分の可能性を信じて。
「ふふん♪この程度の魔法、手遊びにすらならないよ」
使用人の一人がジュディの魔法を見て感嘆の声を溢している。
その少し離れた場所には得意げに5mの火球を2つ軽々と発動させている弟ジュディを傍目に俺はいつも通り一人で森に入る。
その時にいつも聞こえてくる使用人の「それに比べてあれは……」という忌々しそうにこちらに掛けてくる声をさらりと無視し、少し歩いた場所に自分で作った魔法の練習場所に来る。
辺りは木々や草花が鬱蒼と生えるほぼ藪の中に立つと、魔力の流れを掴む。
集中すると少しずつ世界から色が抜け落ち辺りの環境音も遠のき、的となる木と自分しか存在しない空間が目の前に広がる。
───あっ、今日は良いかも
そうして俺は右手の平を前方に向けると魔法発動の為に魔法名を口にする。
「フレア」
ごく稀に起きる空間に溶け込むようなその集中力に反して、いつも通りなんの反応もない。
前に広げた手の平にはなんの変化もないし、周囲にも変化はない。広げた手の先には蝶が止まり、少しずつ色褪せた世界から帰ってくる。
「………やっぱり、魔法にならないな…」
そう。俺ことノエルは魔法が使えない。
魔力は感じる事ができるがいつもそれ以上の事が出来ないのである。
なのでいつも通り魔力を粘土のように練って少しでも魔法を使える様になる為の訓練を終わらせると、近くの木に立てかけてあるお手製の木剣を手に取り素振りを始めた。
ノルマである6000回の素振りをおよそ4時間程かけて済ませると、少しの休憩を挟んで今度は筋肉を鍛える為の訓練を始めた。30mの距離を背中に丸太を数本背負って体力の限り往復したり、基礎的な腕立て伏せや腹筋等も筋肉の限界まで行う。
俺はこの訓練の時間が何よりも好きだ。家に居ても延々と嫌味を聞かされるし。
そうして朝から夕方まで一人で訓練し、帰路につく。
森を抜け、庭に目をやるとつい先程まで弟も魔法の練習をしていたようだ。
あいつはずば抜けた才能もあるが、魔法を使うことに関してはストイックで自分が満足するまで練習し続ける。
なので最上級魔法にもあと一歩という所まで到達している。
性格は最悪だけどその一点に関しては尊敬する。
本当に、双子でなぜここまで才能の差が出てしまうのだろうか…
俺とジュディは双子でありつつ見た目がかなり違う。ジュディはサラサラとした金の糸のような髪の毛で、俺は色の抜けきった様に真っ白な色をしている。
その魔法が使えない事と容姿のことで「あいつは髪の毛の色と一緒に魔法の才能も抜け落ちたのか」と両親にも言われる始末で、少しだけ気にしている────が、皮肉にも少なくとも顔面は良い方らしく一度使用人達が「愛玩奴隷として売って金にしたほうがこの屋敷の為にもなるのでは無いか」と割と真剣に話してるのを目撃した時は少しだけ震えた。
門をくぐると正面いっぱいに広がる大きな屋敷に夕日がグラデーションを作る。この家専用庭師が整える観賞用の庭の方には大きな噴水と池が広がり、陽の光を浴びてキラキラと輝やいている。
なんとなく察してはいるだろうが、ウチは貴族だ。
しかも公爵である。
俺の家、ヴァンスター家は代々優れた魔法使いを排出し、宮廷魔法師団の団長を担っている。なので勿論父のアラン・ヴァンスターは現在の宮廷魔法師団団長で、二つ名を持っている。
“絶対零度・アラン”
父は氷魔法において大陸一と言わしめるほどの実力を持ち、戦況を見て出す支持の正確さ、敵には冷酷なまでの行動、それらすべてを踏まえて堂々の団長の座である。
その存在は王国に広く知られており、と言う事は勿論その息子である俺とジュディの事も知られている。
ジュディはアランが大絶賛するほどの鬼才を持ち、普通5〜6歳になってやっと発動できる初級魔法を1歳で発動し、学園でようやく学べるようになる上級魔法も6歳にしてほぼ完璧に扱っている。そんな存在に民衆は「神に愛されし神童」「勇者の再来か」などと持て囃されている。
そして引き合いに出されるのは俺だ。
普通の子供なら何かの魔法が1つでも使える年齢にも関わらず未だになんの魔法も使えない事から「弟に全てを吸われた哀れな兄」「公爵家の穀潰し」「能無しノエル」などと好き勝手言われている。
まあ、そんな感じで俺はこれまで家でも肩身の狭い生活を、街に出ても変な称号を囁かれ、ひっそりと一人で鍛錬三昧の生活を送ってきた。
閑話休題。
鍛錬が終わるとまっすぐ家には戻らずに、庭の方にある湖に向かった。体中についた泥などを落とすためだ。
屋敷の風呂を使わせてもらえないのでこうやっていつもここで体を綺麗にしている。
生活に必要最低限の質素な服などは貰えるのでそれまで着ていた服も自分で洗い、人目のつかない場所にある洗濯物を干す為の場所に向かった。
屋敷の側を通っていると、いつも通り使用人達がヒソヒソとこちらを見ていつも通り嫌味を言ってくる。それもいつものように無視して歩いているとある使用人の話が聞こえてきた。
「そういえば丁度1年後、7歳になるジュディ様は“素質鑑定の儀”を受けられるのですね」
「ええ。きっと途轍もないスキルを見せてくれるはずです」
「……となるとアイツも受けるんですね」
「………ええ。幾ら能無しで嫌われているとは言え、鑑定を受けさせないとなると体裁的に弱みになってしまう可能性がありますからね」
「儘ならないものです。寧ろアイツを鑑定して恥ずかしい内容だったときの方が問題になりそうなものですが…」
「民達も全員アイツが落ちこぼれなのは既知のこと。その事は公爵様も理解しているはず。ですので来年2人共に受けるでしょうね」
そう。7歳になった子供は“素質鑑定の儀”を受ける事ができる。鑑定眼という特殊な目を持つ5人の鑑定士にその子供が持つ素質を見てもらうというシンプルな内容だ。
今はこんな魔法が使えない、鍛えた体の頑丈さだけが取り柄の俺も、もしかしたら何かの素質があるかもしれない。
そう思えばまだまだ頑張ることができる。
一年後に控えた鑑定の儀に向けて、俺は明日もまた限界まで鍛錬をするだろう。自分の可能性を信じて。
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