覚醒屋の源九郎 第一部

流川おるたな

説得

 ジオンが感情を殺して話し出す。
「カルン...そして皆にも聞いて欲しいんだが、どうやら俺達は人間界へ行く事は叶わないらしい」
 一団の面々がどよめき出す。
「それはイバシュ王子の下に行く事を諦めるということか?」
 ミリシャがいきり立ち誰よりも早く問う。
「実質そういう事になるな...」
「あ~え〜と、わしから説明した方が早そうじゃな」
 言葉が上手く出て来ないジオンを見かねて太公望が口を挿む。
 一団のどよめきが収まり、全員が太公望を注視する。
「まず、イバシュが妲己らと手を組んで人間界を支配するという目的は絶対に達成させる訳にはいかぬ」
 また一団がどよめき始めた。
「だがのう、お前達の代わりにわしと悟空でイバシュをこちらに連れて帰る事は可能かも知れん」
「おいおい太公望そんな約束して大丈夫か?オレ達はそのイバシュとやらの居場所さえ知らんのだぞ」
「悟空よ、まだわしの話しは終わっておらん。話が終わるまでち〜っと黙っといて貰えんかのう」
「チッ、分かったよ」
 悟空は実力や地位的には太公望より上であり、性格的にも本来はこのように直ぐ折れるような事はない。
 それには無論理由があるのだが説明はまたの機会にしておこう。
「但しイバシュを連れ帰るには3つの条件がある。一つ目は、おぬしらがこのまま国に戻りじっとしておる事。二つ目は、イバシュの居所を教える事。そして最後が重要なのだが、わしと悟空が会うまでにイバシュ本人が取返しのつかない罪を犯しておらぬ事じゃ」
 今度は邪魔が入らぬよう立て続けに話した。
「この条件で納得して貰えんかのう?」
 一団は恐らくイバシュの手助けをすべく意気揚々と国を出陣して来たと思われる。
 初っ端から出鼻を挫かれ人間界に行く事も叶わず、早々に国に引き返すというのは名誉を傷つける行為に他ならない。
 大人しく引き下がってくれれば良いのだが...
「このまま国に帰ろうものなら後世まで恥を残すことになる。それなら死んだほうがマシだ、いっそ殺してくれ!」
 気の強そうなミリシャが一番に吠える。
「やはりそう来るのう」
 太公望は予想通りの反応が返って来てやれやれ顔だ。
「ミリシャや他の者も聞くがよい。わしはおぬしらに無駄死にして欲しくないと願っておるよ。そこでじゃ、わしもおぬしらと共に国について行き、王や国民に理解して貰えるよう説明するつもりでおる。ここは条件を呑んで引き下がってくれんかのう?」
「皆聞いてくれ!俺もイバシュ様を助ける事も出来ずに国に帰るのは痛恨の極みだ。だが命を粗末にする事は違うのではないか!?太公望がここまで考えてくれているのだ。辛いだろうが恥を捨てて国に帰ろうではないか!?」
 ジオンは何よりも仲間の命を最優先に考えているようであった。

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