覚醒屋の源九郎 第一部

流川おるたな

悟空の罪

「なっ!?」
「グォ!?」
 狭い洞窟内でダークエルフとアンズーらの密集した十数体の一団は、突如として目の前に現れた雷を回避できる訳もなく、無防備な形で全員が直撃を受けるハメとなった。
 ダークエルフ達はには明らかに効果がありバタバタと地面に倒れていったのだが、アンズー5体は直撃を受けたものの、ほとんどダメージが無いようである。
「予想はしておったが、やはり此奴らに雷は効かぬか。口惜しいのう」
「グゥォオオオッ!」
 無傷のアンズー5体が太公望に対して一斉に襲いかかる!
「太公望!伏せろ!」
 後ろからの悟空の声でサッと伏せる太公望。その上を長く伸びた如意棒が目にも留まらぬスピードで通り抜ける。
「ドン、ド、ド、ド、ドッ!」
 広い場所で有れば横になぎ払って一掃したいところだが、戦闘に関して熟練度の高い悟空は素早く状況を把握して、如意棒による凄まじい速さの突きをアンズー達にヒットさせた。5体の巨漢がほぼ同時に後方へ吹き飛ぶ。
「流石だな悟空よ。助かった」
「まだまだこれからだろ。あとは全部まとめてオレに任せろ」
 戦闘力で比較すると、ダークエルフは純正のエルフと大差は無い。だが魔法剣士であるエルフ、ダークエルフは共にこの精霊妖精界において100種を超える種族の中でもかなりの強さを誇る。精霊妖精界の戦闘力ランキングで云えば10位くらいに位置しているのである。
 それに加え本来は神界や幻獣界に生息し、この世界に居ないはずの魔獣アンズーの強さはダークエルフを超えていると考えた方が良いであろう。
 この一団の総数は全部で15体。果たして悟空一人で倒せるものなのか...
 などと太公望が思案している間に、ダークエルフとアンズーの一行が次々と起き上がる。
「我が名はジオン!いきなりとんでもない歓迎をしてくれたな。貴様ら何者だ?」
 リーダーらしき者が問う。
 交渉の余地があるのでは?太公望は考えたのだが...
「ヘイヘイヘイ!お前らには悪いが、この斉天大聖孫悟空様の鬱憤ばらしに付き合ってもらうぜ!」
 この猿には交渉というは選択肢は無いらしい...
 だが、孫悟空の名前を訊いて敵御一行様が一瞬怯む。どうやら猿の事はある程度知っているようだ。
「これはこれは孫悟空様とは!ここで会ったが100年目とは正にこの事だ。随分と昔の話ではあるが、ダークエルフ王国へフラッといらっしゃって、お戯れで王国を崩壊させた過去を...覚えているか!このクソ猿!」
 ある程度どころでは無かったようである。
「悟空、そこのジオン言った王国を崩させた事実に相違ないのか?」
 ふ〜、と息を吐き太公望がやれやれ顔で問う。
「あ、嗚呼、だが100年以上も昔の話だぜ。まだ引きずってんのかこいつらは」
「正気か貴様!引きずらんほーがおかしいだろっ!?」
 ジオンは取り乱して叫んだ。
 もはやどちらが悪役なのか分からない状況である。

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