覚醒屋の源九郎 第一部

流川おるたな

全力

「ライトニング!」
聞仲に向かって光の球を放つが当然の様に金鞭に叩かれ閃光炸裂。
「スモークミスト!」
 続けて煙の霧で標的の周囲を包み見込む。
 目眩しのニ段構えだ。
 俺は飛躍的に向上した跳躍力で空中に高くジャンプする。
「アイスアロー乱れ撃ち!」
 数十本の鋭利な氷の矢を標的に向け解き放つ。何発か当たってくれれば勝利へ近づける。
 ここまで魔法の3連発。
 自画自賛だが、低級魔法とはいえ詠唱なしで放てる俺だからこその芸当だ。
「インビジブル!」
 念には念を。現在使用可能な技を全て出しきって一気に攻める。 
 金鞭が煙を振り払い氷の矢を粉砕していたが、聞仲のダメージと体力の消耗が影響してか、氷の矢が左脚に1本と右腕に一本突き刺さっていた。万全の状態なら全てかき消されていたかもだ。
「若造!奇襲はもはや通用せんぞ!」
 聞仲が叫ぶと金鞭のスピードが加速し、持ち主の周りを竜巻状に動く。八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が回転して暴れているかの様に。
 既に懐直前まで接近していた俺は、今度こそタダでは済まなかった。
 背中から始まり、金鞭が全身を容赦なく鞭打つ。激痛に襲われインビジブルも強制的に解けてしまった。
 妖気の羽衣を発動させていなければとっくに倒れていただろう。
「でもな、こんなとこで終われないんだよ...っりゃーーーっ!」
 村正を上から下へ捨身で振り抜いた。
「ザシュッ!」
 金鞭を握っていた聞仲の右腕を肩の辺りから切り落とす。
 恐るべき攻撃力と速さで暴れまくってくれていた金鞭も、右手から離れ大蛇が力尽きたかの様に静かになった。
 聞仲は切り落とされた右腕に目を向けて、放心して固まっている。
「ヘヘへ...流石のあんたも顔から余裕が消えたな」
 俺もボロボロになったが聞仲ほどで傷だらけでは無い。
「ク、ククク...」
 コイツ、笑ってるやがるのか?
「私が貴様らを見くびり、ここまで追い詰められてしまった事は認めよう。実際、貴様らは想定していたよりも遥かに強かった」
 お、潔い。なかなかの男っぷりじゃないか。俺もコイツを褒めて遣わすかな。
「そうだろそうだろ。お前も大したもんだったよ。思いの外タフだったしな」
「だが最後に勝つのはこの聞仲だ」
 そう言って転がっている金鞭を残った左手で拾い上げた。
 あ、やっぱりまだやるんすね。
 こちらとしては、さっきのセリフから戦闘終了を着地点として欲しいところだった。
 ん!?不思議な感覚が突然芽生える。
 両サイドの壁の距離が縮まり、道幅が狭まったような気がする。いや、さっきまでの空間がおかしかったのか?...
 それはさておき俺の体力と魔力はもう限界に近いが、頑張ってくれたミーコのためにも、最後の力を振り絞って大金星の快挙を達成しないとな。
 だが俺の思惑とは裏腹に、この死闘は全く予想していなかった結末を迎える事となる。

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