覚醒屋の源九郎 第一部

流川おるたな

苦悩

 部長は谷口さんの座っていた椅子に腰掛けた姿勢でスーッと現れた。お陰様で幽霊には慣れたかも、昼間限定だけれど。
「部長、姿を見せてくれましたね。あの方は奥さんで間違い無いですか?」
 幽霊が声を出せるのか検証だ。
 しかし、部長が口をパクパクして何かを話しているが何も聞こえない...
「何かを話して頂いているのは分かるんですが、こちらには何も聞こえなです」
 部長はしかめ面で俺を静止するような素振りをした。ちょっと待てという事だろう。それから発生練習のような動きをする。
「ん、あ、ん、あーあー」
 ようやく俺の耳に声が届いた。
「どうだ今度は聞こえるか?」
「あ〜はい、今聞こえるようになりました。声を出すのって大変そうですね」
「波長というか何というか。まぁ簡単に言えばラジオの周波数を調整する感じかも知れん」
 この世とあの世の違い、他の異世界のように物理的には存在していないのだろうか。確か天照様に異世界について説明を受けた時は霊界という単語は出て来なかった。霊界が存在するとしても異世界と違い多分特別なものだろう。
 幽遊白書って漫画では確か...!?、長考に入ろうとした俺を部長が睨みつけているので考えるのはまた今度。
「何があったか知らんが仙道君は若返ったような気がするな。ふむ、それはさておき話しをしても善いか?」
「あ、すみませんどうぞどうぞ」
 やはり俺の異変に気づいていたか。
「あれは妻で間違い無い。それと俺が自殺したのは妻が言ってた通り仕事、いや、正確には職探しが原因だった」
「部長が自殺をするほど追い込まれたって事ですよね。差し支えなければ詳しく教えてください」
 もはや生きている人と同じように会話出来てるな。
「元部下のお前に愚痴のような話しをしたくは無かったが、もう死んでるんだ。恥ずかしがる事もあるまい。始まりは石橋フーズの倒産だ」
 石橋フーズが倒産した時、俺も含めて働いていた従業員はみんな大変だったろうな。
 部長は続ける。
「倒産して突然職を失い俺は焦っていた。よくある話しだが、家のローンがまだ残っていたからな。当てにしてた退職金は一切支給されなかったし次の日から直ぐハローワークに通ったよ」
 俺は相槌を打つ。
 部長には家族があった事を思い出していた。
「当時の私は58歳。求人によっては年齢制限もあって厳しい状況だった。それでもプライドなんか捨てて、石橋フーズ時代の取引先にも空きがないかと頭を下げた」
 就活の厳しさなら俺も分かる。部長は年齢的にもっと厳しかっただろう。
「かなり妥協もして会社の面接を何件、何十件受けてもダメだった。取引先に頭下げたのも含めて全て無駄に終わったよ」

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