覚醒屋の源九郎 第一部

流川おるたな

秘策

 頭にちょこざいなアイディアが浮かぶ。
「その仙人界から来た3人を、太公望様と孫悟空様でちょちょいと倒してもらうってのはダメでしょうか?」
「無理じゃな。わしと悟空だけではあの3人は倒せんよ」
 太公望様は即答したが、孫悟空様は不満顔だ。
「シルフ殿、結界の修復をするには四大精霊の王達を協力させれば良いのじゃな?」
「そうですけど簡単には...」
 俺の知る限り太公望様は智略に長けた方の筈。何か考えがあって引き受けて下さるに違いない。
「リアーネ、太公望様の事だ。きっと何か秘策があるのだろう。ここはお願いしようじゃないか」
「ですね。わたし達が動くよりも良い成果を上げて下さる事でしょう」
 リアーネとの協議の結果、太公望様に託す事にした。
「では結界の件は太公望様にお願いしてもよろしいでしょうか?」
「うむ、任せておけ。今のところ秘策など思いつかないが何とかなるであろよ」
 いや無策かーーーい!突っ込まずにはいられなかったが、この人は不思議と本当に何とかしてくれそうな気がする。
「そろそろ出発するとしようかのう孫悟空」
「結界の件は分かったが、太公望よ。オレはあの3人に劣っていると思ってねーからな」
「お主の強さは十分知っておるよ」
 さっきの引きずってたのね。孫悟空様は余程の負けず嫌いらしい。
 孫悟空様が口に指を当て口笛を吹き叫ぶ。
「来い!觔斗雲」
 二人の乗って来た雲が何処からともなくやって来た。まるで意思を持ってるかのように。
「結界の修復が終われば駆けつける故、それまで頑張るのだぞ!」
 と太公望様は言い残し、孫悟空様と共に飛び立って行った。
 あまりの急展開に暫く全員がポカンとしていたが、徐々にキャンプのあと片付けに移行する。
 山を下りて駅に着き、帰りの電車の中で朝食と一緒に作った弁当をみんな雑談しながら食べた。
 目的の駅に着いてキャンプ終了。
 それぞれの想いを胸に、各々の家路に就く。
 俺と泉音は家が近く、方向も同じだったので一緒に帰る事にした。
「修行は辛かったけれど、キャンプ楽しかったね」
 泉音が楽しんでくれて何より。
「そうだな。来年の夏は俺的に海でやりたいな。釣った魚を焼いて食べたりしてさ」
 敢えてメインの目的である水着云々は外して話す。
「あ、良いね〜。いつか機会があれば釣りを教えて欲しいな」
「勿論だよ」
 釣りの知識はあるが自宅に道具が揃っていない事に気づく。大至急で調達しておかなければなるまい。
「ヴァンパイアのガラントは会えなかったけれど、太公望様と孫悟空様に会えたのはちょっと感動しちゃったかな。空想上の人達だと思ってたから、よく考えたら凄い事だよね」
 前置き無しで話を急に変える泉音。少し天然かも。
「最近そういった感覚が麻痺してたけど、実際のところ確かに凄い事だよな」
 段々と普通だった事が普通でなくなっていく。そして、普通でなかった事が普通になっていく。
 常識の変遷ってやつか...などと、泉音を見送りながら考えていた。

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