覚醒屋の源九郎 第一部

流川おるたな

阿波尻治志(あばじりはるし)

 熱いお茶、いや冷たい麦茶が良いだろうか?悩んでるよりお客さんに伺った方が早いな。
 電気ポットの水を入れ直し再び電源を入れる。
 以前勤めていた会社では営業をしていた。だからという訳ではないが、お客さんをもてなす作法は少しくらい心得ている。
 程なく入り口のドアが開き人影が見える高校生くらいの少年。
「こんばんは、先ほど電話した者です」
「こんばんはいらっしゃいませ、どうぞこちらへ」
話しをするテーブルへ誘導する。
「熱いお茶と、麦茶のどちらがよろしいでしょうか?」
「あ、すみません麦茶でお願いします」
「ミーコさん、麦茶をお願いします」
「はーい」
大人の姿に化け尻尾を隠して、耳髪の中へ隠す工夫を施し、見た目はほぼ人間の姿と変わらくなっているミーコに頼んだ。
「私は所長の仙道源九郎と申します」
「僕は阿波尻治志、高校1年生です」
見立て通りの高校生。
「今日はどのようなご相談ですか?」
雑談から入ってもよかったのだが、此処は単刀直入に質問する。
 少年は暫く考え上手く言葉が出ない様子だ。人生相談所に来るほどなのだから余程の相談事だと推測する。まさか恋愛相談とかそういった類では無いだろう。思春期の少年にとっては、恋愛相談だとしても重要な事だとは思うが...
「信じてもらえないかも知れないんですが...」
「大丈夫ですよ、言ってみて下さい」
相談者が話しやすいよう慎重に言葉を選び促す。
「1週間ほど前の事なんですが、部活の帰りにいつもの道を歩いていたんです。辺りは薄暗くなっていて、10m以上離れた人の顔も判別できないくらいだったかな...」
「はい」
「前から何かが向かってくるのが見えて、最初は子供か大きな犬かなと思ってたんですが、近づくに連れて変な走り方をしてるのが分かって、それが僕に突っ込んで来たから避けたんです...」
「危険を感じたんですね」
ミーコが運んでくれた麦茶を勧めるか迷ったが、阿波尻少年が話しを止めてしまうのを恐れやめた。
「それでそいつが何なのか確認しようとした瞬間、身体に電撃が走ってそいつが目の前にいたんです」
「そいつは何だったんですか?」
「どう伝えたらいいのか...この世の者とは思えない姿をしていて、ロードオブザリングって映画にに出て来そうな化物のようなやつと言って分かりますか?」
「知ってますよその映画、だから想像はできるかも知れません」
あの映画はシリーズ通して3回繰り返して観た。抜群におもしろかったよなぁ。
「そいつが日本語を喋って更に驚いたんです」
「何て言ったんですか?」
「契約は完了した。この先、オレとお前は永い付き合いになる。と言いました」

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