異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

現実世界⑤~世界はこれからも続いていく~


 家についてからは二人で線香をあげた。ミュウは嬉しそうにバオウにまとわりつき,母さんは微笑みながら後ろで様子を眺めていた。
 ずいぶんと年老いてはいるけれど面影を残したベルと,ほとんど様子の変わらないじいちゃんと,幼くして命を落としたジャンの遺影に祈り送った後,ジャンとともに日記を見た。
 バオウは始めは涙を目に浮かべながら読んでいた。自分にとって幸せで辛い思い出は,バオウにとっても同じみたいだった。何かについて誰かと共有できるというのはとても素晴らしいものだと思った。
 手記を読んだあと,バオウと話をした。二人の間には共通して,分かったことと分からなかったことがある。
 分かったことは,みんなで過ごした今までの時間に嘘はないということ。たとえ時間軸が違ったとしても,みんなで同じ時を過ごし,思いを共有した。
 分からなかったことは,世界がこれからどうなっていくのかということだ。過去を改ざんして世界を変えようとした相手の野望を阻止した自分達には,今まで過去を旅してきたということで得たものは数えきれないほどあるけれども,未来は分からない。
 結局,未来は自分たちで作り上げていくのだ。
 どこかで見守ってくれているであろう旅の仲間たちの思いを背負って,これからも歩み続けていく。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品