異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

現実世界②~じいちゃんの日記~


 母さんは書斎にいた。昔じいちゃんが使っていたという部屋で,かくれんぼでとおい昔に何度か入ったことがあるくらいで,まじまじと見るのは初めてだ。
 本棚にはたくさんの本が並べられており,読むのに苦労しそうな分厚い者ばかりだ。母さんはその中の一つに手を伸ばし,ぶっきらぼうに差し出した。それを手に取り,中身を見ずに尋ねる。

「なにこれ?」
「いいから見なさい」

 適当なページを繰り出した。どうやらじいちゃんの日記のようだ。文字を拾い読みしながら見ていると,不思議なことに気がついた。始めの方のページはインクもなじんでかすれかけ,ずいぶんと古い者のように見えるが,極端に新しいものもある。昨日やついさっき書いたのではと思えるほどインクののりも良い。もっと気になることがあった。明らかに,ページの途中で字の癖が違うものもある。きっとこれは,合間合間で違う書き手が書いた者に違いなかった。その異なる筆跡の一節に目をやる。

とうとうソラに秘密がばれてしまった。おれはじいちゃんとの約束を果たさなければならない。そのためにソラの世界にわざわざやってきたのだから。でも,苦しい。弟と,仲間と離れたくない。じいちゃん,おれはどうするべきだ? このまま尻拭いもせずにのうのうと生きていくべきか? 答えは分かっている。でも,いつも模範解答の通りに生きていけるほど,人間は強くないだろ?

 その文章は苦痛に満ちていた。じいちゃんに宛てて書いた文章であるようだ。一体誰が?
 ジャン,という単語が頭に浮かんだ。途端にさっき感じたはじけるような電流のような痛みが頭を駆け巡る。おもわず膝をついてうずくまる。何かがあったんだ。思い出せそうで思い出せない。
しばらくそうして頭を抱えてうずくまっていた。


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