異世界になったこの世界を取り戻す
最期の冒険②~兄の役目~
自分に何が出来るだろう,と考えてみた。不思議だった。ほんの少し前までは,誰かと一緒にいるときは常に主導権は誰かにあった。それは自分の事であってもだ。物事を決めるときには誰かの指示に従い,自分がどうしたいのかもはっきりしないままに進めていた。なにをするにしても,判断の基準は常に他人の中にあり、自分の中身と言えば吹けば飛んでしまうのではないかと思うほどにスカスカだった。
この旅で,たくさんの人に出会った。多くの出来事があった。それらの出会いや出来事は,薄っぺらい自分にいくらか厚みを持たせてくれた。元の世界にもどったらどうなってしまうのだろう。ふと不安になる。今まで出会った人、仲間,成長した自分・・・・・・これらが無くなってしまうのではと思うとやりきれない。ジャンには,・・・・・・ジャンとの記憶も,思い出も全て無くなってしまうのだろうか。この記憶を,思いを何かに残しておきたい。ポケットを探る。もちろん,そこには何も入っていない。二人が過ごした足跡を残すことも出来ないんだ。
「せめて・・・・・・」力を込めて前を向いた。せめて同じ世界で一緒に過ごすことが出来ないジャンへの恩返しとして,雄姿を見せたい。その思いが自分の身体を突き動かした。
「ジャン,今までありがとう。元の世界に戻っても,見守ってて欲しい。ジャンのこと,兄ちゃんのこと・・・・・・」
涙を必死にこらえた。
「忘れないから」
ジャンはニッと笑って,鎌の柄をこちらに向けて動き出そうとするのを制止した。
「照れくさいこと言うなよ。兄ちゃん,か。そうだな。おれたち兄弟なんだ。見守ってるに決まってるだろ」
それに,と鼻頭をかきながら続けた。
「ずいぶんと頼りになるようになったじゃねえか。もう安心だ。最後に,おれにも兄ちゃんらしいことをさせてくれよな」
そう言うと,鎌を肩に乗せてヤマタノオロチに向かって飛び立った。首の一つがジャンの動きを捉えた。そして,空中にいるジャンに向かって大きな口を開いた。ジャンが鎌を振る。その所作があまりにも美しくて,一瞬の間時が止まったようにすら感じた。死神のジャン。きっと死にゆくものは命を刈り取られる前にその美しさに感嘆してから黄泉の国減ったことだろう。
最初は首に傷一つつかなかったヤマタノオロチの首だったはずなのに,まるで豆腐を切り落とすように刃の懺悔器がすっと入っていったようだった。そして,ジャンが鎌を振り抜いてからしばらく時間をおいて,綺麗に首が一つ落ちた。首からは血しぶきが上がらないほどに綺麗に落とされていた。
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