異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

決意とともに⑥~臆病者~


 身体の感覚が戻ってきた。頭が痛い。おそるおそるまぶたを開けると,そこには宇宙空間が広がっていた。そうだ,ここが自分か今いる世界だ。さっきのは何だ? まるで夢の中にいるみたいだった。

「大丈夫か? ずいぶんうなされていたが」

 バオウが心配そうに顔をのぞき込み,喉元に手を当てた。「熱はないが,汗をかきすぎだ」と言ってみずwおさしだしてくれた。
 「悪い夢を見たんだ」と飲みながら言った。やっぱりか,とバオウが背中をさすりながら言った。「夢の中身をkいいても良いか?」と尋ねてきた。暑くも寒くもない空間にもかかわらず,自分だけが大汗をかいていた。みんなも夢を見させられてのだろうか。
 夢のあらましを伝えた。真剣な顔を向けてみんな聞いていた。どうしても心に引っかかっているのは,それが事実なのかどうかということだった。それを確認する相手は,ジャンしかいない。
 ジャンは青ざめた顔で,うなだれるようにしてうなずいた。

「おれは・・・・・・おれが父さんを殺したも同然なんだ。ソラには悪いと思っている。おれは臆病者だ」
「臆病者なんかじゃない」

 強く言い切った。ジャンはハッと顔を上げたが,悲しさをにじませた笑顔を作り,すぐにそっぽを向いた。

「いいんだよ。ありがとな。ずっと・・・・・・謝らないとって思っていた。でも,口にするのが怖くてな。自分のしたことが現実として浮かび上がってきて,ソラに軽蔑されて,悲しませて・・・・・・。おれに出来ることといえば,じいちゃんと誓ったアトラスの野望を打ち砕くことと,父さんの敵を討つことだけだった。そのために,それこそ一心不乱に剣を振った。何かから逃げるように己を鍛えた。やっと,目的が達成できそうだ」
「違う。ジャンは自分を責めすぎだ。夢を見たとき,思ったんだ。あのとき,一番臆病だったのは自分だった。ジャンは自体を悪くさせないように,拳を握ってこらえていた。叫び出したくなるほどの恐怖だったはずなのに。自分はといえば,状況を飲み込むのに時間がかかってずっと立ちすくんでいた。まずいと思って家族が命の危機にさらされていると認識してからでさえ,何もせずに突っ立っていた。本当は,自分でなんとかしないといけなかったのにその責任すら放棄した。卑怯なのはこっちだ。でも・・・・・・」

 言葉を詰まらせながら続けた。

「でも,もう過去を振り返ってもしょうが無い。今,生きている自分がこんなことを言うのもおこがましいかも知れないけど,皆がつないでくれた命を大切にしたい。下を向いて生きていくんじゃなくて,やりきった,幸せだったって最後にそう思ってみんなと同じ所に行きたい。ジャンも,今はいろんな人がつないでくれて今ここにいるんだ。一緒に役割を果たそう。やるべきことをやろう。そうして・・・・・・」

 言葉を続けるのには少し勇気が必要だった。

「そうして全部終わったら,自分の天命を全うしたら,胸張ってまた天国で会おう」

 言いながら鼻水が垂れてきた。ジャンの肩が震えている。
 鼻をすする音や嗚咽のまじった声が宇宙を思わせる空間に響き渡った。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品