異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

決意とともに⑤~貫通~



「動くな。剣を置け」

 小さく,高い音を立てて力なく剣が落とされた。唇を青くして,懇願するように父さんは言った。

「ジャンを,その子には手を上げないでくれ」

言う通りにしたらな,とほくそ笑んで青い髪の男は剣を持って振りかぶった。

「よけるなよ,その勇敢なるガキをめがけて投げる。もしよけたなら,後ろの利口なガキに命中するだろうな。万が一にも余計なことをするならば・・・・・・分かるな。このジャンとか言うガキの命はない」

 父さんからうめくような声が漏れた。表情はよく見えなかった。大変な状況に置かれているというのは分かるが,感情がわいてこない。自分が幼すぎるだろうか。手のひらを見つめる。この身体では,戦うことは到底かなわないだろう。戦う? 剣の振り方も知らないのに,なんでそんなことを考えたのだろう。

「ソラ,家の方を向いていなさい」

 言われたとおりにした。
 何かが風を切るような音がした。我慢できずに振り返ると,父さんは膝をついて血を流していた。恐怖で身体が動かなかった。父さんに近寄ることすら出来ない。頬に生あたたかいものが伝ったと思うと,すぐにのどから大声を出して泣き叫んだ。恐怖にとらわれジャンを見た。ジャンはおそるおそる目を開けたところだった。そして,青い髪の男の手を振りほどき,わっと父さんの元へ駆け出した。

「父ちゃん! ごめん,痛かったでしょ。僕のせいだ!」

 父さんはジャンの腕を拭い,最後の仕事を全うするようにして声を絞り出した。

「誰のせいでもないよ,ジャン。ただ,あいつの顔を忘れるな。みんなを,家族をジャンが守るんだ。分かったな。お前は出来る子だ」

 うんうんとジャンが力強くうなずいた。だが,「父ちゃんが守ってよ」とすぐにべそをかいた。「大丈夫,お前なら出来る」と背中を叩いている。

「感動のクライマックスの所申し訳ないが」

 青い髪を風に揺らして気持ちよさそうに様子を眺めていたが,おもしろいことを思いついたように話し出した。

「間違いなくお前のせいで父ちゃんは死ぬな。目は開けとかなきゃだめだろ? どうだ? 最後に父ちゃんに良い物を見せてやらないか? それに・・・・・・お前も父ちゃんと一緒にいたいだろ?」

 凍るような笑い方をした。父さんは目を赤くして叫んだ。

「何をするつもりだ!」
「まあ見てろや」

 新たな剣を取り出し,ジャンにめがけて一直線に投げた。その鋭利な切っ先は寸分の狂いもなくジャンの心臓の方向へと矢のように進んだ。
 父さんが身体をジャンごと反転させた。父さんの身体を剣が貫く。ただ,必死の抵抗もむなしく,父さんの身体を貫いた剣は,そのままジャンの身体をも貫通した。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品