異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

過去にある現在⑳~見えなくても,そこにいる~

「どうしてなの? じいちゃんはそれでいいの? 実の孫がいなくなってしまうんだよ? いないなら,死んでいるのと同じじゃないか! どうしてそんなことができるんだ!」

 言いたいことが次から次へとあふれ出てくる。思考が整理される前に表出する。あふれ出る感情を無理やりせき止めるように,「黙れ」とじいちゃんは威厳のある声で言った。

「よいか? ソラに物心がついてからの世界にジャンはいなかった。バーボンがうちにやってきた時,親父とともにジャンを殺してしもうたからの。じゃが,時の欠片の力でこいつはソラのいる世界に戻ってきた。その時点で時空にひずみが生じておるのじゃ。そんなことをしたのは,アトラスの企みに気付いたからじゃけどな。だからと言って,自分たちにだけ都合のいいようにするわけにはいかない。けじめはつけにゃあいけん。何より・・・・・・」

 じいちゃんは一拍間を置いた。そして,苦しそうに口元をゆがめて言った。

「ジャンを時の欠片を使って連れてきたのはわしじゃ。誰が何と言おうと、わしはやるべきことをやる。たとえお前たち全員を敵に回してもな」

 じいちゃんは顔をゆがめた。精神が崩壊するギリギリのところにいるみたいだった。でも、そこから崩れることはなかった。柔和な顔をして,優しい声で言った。

「ソラ,おらんくなると言っても,死ぬちゅうこととは違うんじゃ。ジャンは二度死ぬわけじゃない。見えんでも,そこにおる」

 ジャンが頭をわしづかみにしてきた。たまらず,咆哮をあげるように泣き叫んだ。

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