異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

時空を超えて⑦~情報共有~

 まずは情報を整理して共有しておかねえとな,と肉を頬張りながらジャンは紙を取り出した。バオウはジャンに耳を傾けながらスープを注ぎ分け,ミュウはバオウにさばいてもらったネズミにかじりついている。
 手元のメモにはびっしりと文字が書き込まれていた。もしかすると,バオウとミュウが食料調達をしている間にジャンは木に登って地形を探り,なにかしらアポイントを取って調査をしていたのかも知れない。自分がのんきにひっくり返っている間に・・・・・・。

「状況はこうだ。おれたちはアトラスに時の欠片を使われて時空を移動した。問題はその時間と場所だが,おそらく百年以上前の砂漠にぶちこまれている。地平線を見渡しても,気持ちほどのオアシスがあるぐらいで村ひとつ見当たらない」
「それじゃあ情報収集どころか,これからどこへ進めばいいかも検討がつかないじゃないか」

 バオウが地べたに座り,骨付き肉を頬張りながら言った。特に焦った様子はない。

「いや,たくさんではないが,オアシスにいくらか人がいたから聞いてみた。ここらはちょうど砂漠のど真ん中に当たって,物流の休憩所としてオアシスが重宝されるらしい。絶海の孤島におれたちだけが放り出されてという訳ではないみたいだ」
「そうか。で,何が分かった? これからどこへ向かう?」

 バオウの問いに,スープを飲み干してからジャンは答えた。

「ここから南に下る。少し長い道のりにはなるが,一番そこが近い村だ。とにかくまずはそこへ向かって,おれたちが元の世界に戻れる方法を探すしかない」

 遥か遠くの方を眺めながらジャンは言った。その目は,目的地の村を見つめているというよりはもっと別の何かを見ているかのようだった。

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