異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

助っ人参上④~一刀両断~


 五分も経たないうちに,二つの首が地面に転がることになる。

「ソラ! ノロノロしてらんねえぞ! あの間抜け面のロボットをやるぞ」

 分かってる,と短く答えて,商人に向かってジャンと共に駆け出した。商人はこちらにこちらに向かって手を突き出した。
 
 きた! 重力で押し付ける気だ!
 
 その決まりきった攻撃を見抜いたジャンは,ロボットの足もとへ薙ぎ払うように武器を振るった。商人は素早い身のこなしを見せ,中へ浮かんでかわした。
 ジャンが笑った。目で「やれ」と合図を送っている。
 分かってるよ,と呟いて剣を水平にした。最大のチャンス。二人がかりでやれば,ジャンならいくらでも隙をついて仕留めれただろうし,自分が好き勝手している間にロボットに勝負を決める一打を打てたはずだ。でも,あえて相手に容易にかわせる一手を放ち,確実に仕留める好機を自分の為に作り出してくれた。この期待に応えないと・・・・・・! 一点集中,突きの構え。これであいつをくし刺しにして終わらせる。
 右手で剣を構え,左手を剣と柄に添えて支えにし,そのまま肩をぶつけるようにして全体重を乗せた。剣が金属に深く入り込む感触が伝わってくる。うらっ,と体幹に力を込めるようにして全身全霊をかけて押し込んだ。そのまま壁際まで力を込め,うちっぱなしのコンクリートもろとも突き刺した。
 「終わった。やったよ,ジャン」そう呟いてジャンの方を振り返り,ゆっくりと歩いた。今日だけで何回も死にかけた。気を抜けば,肩の力とともに腰まで抜けそうだった。
 鼻頭にしわを寄せて微笑んでいるジャンの顔が急に引きつった。それと同時に「情けないねえ」という聞きなれた無機質な声が耳元でした。
 とっさに身体を守る姿勢を作った,が,なにも怒らない。恐る恐る前方を見ると,からんという音共に商人の首が落とされた。「最後,気を抜いたな」とジャンが商人の頭を蹴っ飛ばし,さらに体に剣を突き立てた。
 その横に,白髪の頭が投げ捨てられた。その頭は,ヒューゴの物だった。ギョッとして首が飛んできた方を見ると,バオウがヒューゴの身体をわしづかみしている。腰の方のチューブを引っこ抜くと,そのままヒューゴの身体が脱力したようになった。それを確認してからバオウはヒューゴの身体を投げ捨てた。

「じじい相手に遊んだつもりだったんだがな。苦戦しているような状況だったが,大したことは無かった。おれはあんたらを買いかぶりすぎていたのかもな」

 ふっふっふっ,と笑い声がした。ヒューゴだった。まだ生きているのか。ひとつ息を吐いて,眼球を動かした。そして口をもごもごと動かした。何かを話そうとしているようだ。

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