異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

監獄にて⑩~アトラスの企み~




「この世界から人類を排除しようとしているのはアトラス様なの?」

 相変わらず力強い圧力で押さえつかられているジャンとは対照的に,こちらに手をかざしている商人はかなり力を抜いているようだ。こちらに攻撃の意思が無いことを察知はしてのことだろうが,隙は無い。
 ヒューゴは曲がった背筋を伸ばし,胸を張った。その目はさっきよりも力が増している。

「あのお方は世界を変えるお方じゃ。わしが人というものに絶望していることに理解を示し,より良い世界の実現のために背中を押してくれた。アトラス様もこの世界を憂う方じゃ。わしらは方向を共にしておる」
「つまり,アトラス様は世界をよくするために,人間を消そうとしているわけだ」

 人を慈しむ表情で話しかけ,自らを汚して手当をするアトラスの顔を思い浮かべる。優しい顔だった。でも,この瞬間、倒すべき敵として認識しなければならない相手だと覚悟した。ジャンもきっと同じ思いだろう。

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