異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

監獄にて⑦~この痛みと共に~


「悪いが潰させてもらう。この世界から人間を葬り去る。そうして,欲望のないユートピアを実現させるのじゃ。誰も苦しまない,痛みもない,無駄な争いのない,効率と便利さを叶えた世界で生きていくのだ」
「それは誰のための幸せだ?」
「この世で,わしとアトラス様の思想を共有したものたちじゃ」
「おれたち人間はどうなる?」
「受け入れるのであれば,体をサイボーグ化して便利な世の中でわれわれと生きていく。・・・・・・この二人の商人のようにな」

 後ろに控える商人を指さした。やっぱり,この二人は改造されていた。人間として生きることをやめたのだ。
 はらわたが煮えくりかえるようだった。

「ふざけるな! そんなことさせるか! 辛いことがあっても,死ぬほど苦しくても,それを乗り越えていくから人は美しいんだ。痛みを感じられるから人に優しくなれるんだ!」
 
 そう言い切ると,打ちっぱなしの壁を殴った。当たり前だけど,痛い。拳は電流が走っているみたいにビリビリするし,血が流れている。でも・・・・・・

「この痛みを感じながらこれからも生きていく! 逃げるやつは勝手に逃げていろ! やろう,ジャン!」
「よく言った。突破するぞ!」

 人数もアウェイ名この環境も,全ては相手に利があった。それでも,ここで逃げるわけにはいかない。武器を手にして,戦闘態勢に入った。



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