異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

監獄にて⑥~世界の幸福は何処へ~




 長く生きると,誰しも辛い過去は抱えて生きているものなのだろう。それにしても,ヒューゴというこの老人の心痛は計り知れなかった。大切な人を,間接的にではあれ意図せず殺めてしまったかつての老人を想像してみたが,生きる希望を失ったに違いいない。それを救ったアトラス様。あの森で出会った不思議な女性はどれほどの力を持っているのだろう。
 同情している横で,そうかそうか,とさもくだらない話を聞かされてうんざりだとでも言いたげにジャンは呟いた。

「辛かったなあじいさん。でもよ,お前達がおれたちが生まれ育った町を侵略しようとしているっていうのはおかしな話じゃないか? 偉そうに言っていった世界の幸福とやらはどこへいっちまったんだよ。そんな筋の通らねえ話はあるか。今すぐに取りやめろ」

 ジャンの言うとおりだ。ヒューゴは故郷を潰そうとしている。それは,かつてのヒューゴが求めていたものとはまるで逆行している。
 偉そうなことを,といきりたつ商人を制止してヒューゴは立ち上がった。




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