異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

監獄にて⑤~ヒューゴの過去②~

 それを知らされたのは,村が吹き飛ばされて数ヶ月経った頃じゃった。もう当時の景色は跡形もなく変わっており,復興の兆しを見せていた。アトムが持っているエネルギーを軍事利用すればどれほどの惨事になるかは見なくても分かる。きっと,地獄絵図の中のような風景にわしの家族や友人は登場していたじゃろう。そして,その地獄絵図を描いたのがわしのじゃったと知ったときの絶望がお前達に分かるか。
 わしを科学チームの一員として招集した組織は,悪びれもせずこんなことを言いよった。「新たなる素材を作ってくれ。一緒に世界をとろう」とな。
人間とは愚かなものじゃ。憎しみが憎しみを呼び,ふと立ち止まって自らが犯した過ちに気付いては「二度と繰り返すまい」と猛省する。じゃが,人間は繰り返す生き物じゃ。過ちであった歴史もまた繰り返される。
人間の作るこの世界に希望などない。そもそも世の中は平等ではない。人間の両腕がどれほど発達しようとも鳥のように美しい青空を飛ぶことは出来ぬし,両足をどれほど鍛えてても馬のように速くは走れない。だから,私は知力を持ってして人に夢を見させ,同じように生物の幸せを享受したかっただけなのじゃ。じゃが・・・・・・人は愚かじゃ。欲望のためなら人の不幸を顧みない。
だからわしは,組織の言いなりになる振りをして,自らの命と共に,せめてこの組織だけはこの世から葬り去ろうと考えた。村に対する,わしの行いに対するせめてもの懺悔のつもりでな。研究発表の場面でわしは組織のものの前で,アトムと共に自爆した。それでわしは終ったはずじゃった。
 じゃが,目を覚ますと,あの奇跡と呼ばれるお方と共に病室にいた。お前達も知っておるじゃろう。・・・・・・わしはアトラス様に救われた。


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