異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

監獄にて②~やつらの目的~


 味のないカスカスのパンを頬張っていると,横から手が伸びてきた。

「ほら,お腹空いてるんじゃん。2人分食べるところだったよ」

 「うるせえなあ,今腹が減ったんだよ」と訳の分からないことを言うジャンの手にパンを手渡すとき,思わず身体が固まった。豆だらけのごつごつした手が節くれだっておばあちゃんの過酷な環境で農地を開拓するおばあちゃんの手のようだ。ロボットにやられた傷ばかりに目がいっていて気が付かなかったが,いつの間に・・・・・・。

「何を物珍しそうに見ているんだ」
「だって,ジャン・・・・・・,その手どうしたの?」
「あ? これか。今頃気付いたのか。ずっとこうだよ。お前の物心がついた頃からだよ」

 生まれた時から持っているものが違うと思っていた人が,自分の知らないところでとてつもない努力をしていたのだと知ると,自分の能力の無さを仕方のないことだと少しでも考えていたことが情けなくなる。でも,もしかしたら努力を続けていれば強くなれるかもしれない。自分も釣極なりたい。ジャンの手を見てそう思った。

「ところで,何なんだこいつらの目的は。いきなり襲ってきやがってよ。一体おれたちが何をしたって言うんだ」

 パンくずを口から飛ばしながらジャンがわめく。確かに,他にもお客さんはいたし,その人達とただ話をしていただけだ。もしかして,その話の内容が何か都合の悪いものだったとか・・・・・・?

「もしあのおじさん達を巻き込んでしまったのだったら申し訳ないね。無事だと良いんだけど」
「まあ,窓から出て行ったような跡はあったからな。無事だと信じよう。それより,ソラの命よりも大切なペットちゃんのことはいいのか?」
「そうだ!! ミュウ! 無事だろうか。あのロボット達、絶対に許さない。特にあの消えるやつ! 卑怯だぞあんなの。ミュウに何かあったら,もう一体のロボットみたいにウニにしてやる!」

 あれをやったのはおれだから,とジャンが言いかけたとき,牢獄の扉が開いた。

「やかましいのう。思ったよりタフじゃなこやつら」

 肩まで伸びた白い髪を後ろで一つにくくり,白目が濁ったおじいさんが入ってきた。深いしわが刻まれたその要望からはかなりの年齢のように思えた。この人は間違いなく人だ。発声、体の使い方、わずかに感じられる人としてのぬくもり。・・・・・・人であることには間違いがないのだろうが,ロボットと同じ無機質な雰囲気が体中からあふれ出ている。
 何者かと様子をうかがっていると,初めて笑った。冷たい微笑みだった。

「気になるようじゃのう。ほれ,出てこい」

 老人がそう言うと,老人の左右からふたりのおじさんの姿が突然現れた。手には,二人の気を失わせたあのハンマーが握られている。その顔は,あの酒場で一緒に飲んだ商人と同じ顔だった。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品