異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

人が支配される街⑰~悪いシナリオ~

「ちっ。打撃は防いだのに,吹っ飛ばされたときにあばらをうっちまった。骨が完全にいっちまってるな」

 いてて,とあばらをさすりながらテーブルを補助にしてジャンが立ち上がる。

「無理・・・・・,するなよ」
「ばーか,瀕死状態で何言ってるんだよ。泡吹いてんぞ。逃げろって言ったのに,だからそんな目に遭うんだ。ほんと学ばないなあ」
「決めたんだ。ほっとかないって。それが信条だ」
「きれい事並べやがって。まあなんとなく分かってたけどよ。・・・・・・お。こいつは使えそうだ」

 ジャンが手にいくつかの瓶を取ると,力を振り絞ったかのように地面にへたり込んだ。

「いててて。・・・・・・ソラ,これをそこら中に撒け。一つはそのまま持っておくんだ」

 そう言って瓶を三つ投げてきた。それを受け取り,なにこれ,と呟いて手元を見ると「salt」「Pepper」「Hot」とラベリングがしてあった。調味料だろう。

「これを撒いて食ってやろうってわけだね」
「つまんねえ冗談はやめろ。適当に,できるだけ広範囲にだ」
「これに吸い寄せられるの」
「まじで分かんねえのかよ。これを撒いて,相手の動きを探るんだ。物体として存在しているなら,跡が出来たり,近づいてきたのを察知できるはずだ。・・・・・・さすがにないとは思うが,攻撃の時だけ存在として現れて,それ以外は姿が見えないだけじゃなくてそもそも存在しないというのが一番そそられるパターンだな」

 頭いいな~,と感心してできるだけ遠くの方に振りまく。とはいえ,あまり遠くに撒いても効果が見えにくいため,壁に背をつけてできるだけ面積を無駄遣いしないように,視界に捉えられるぎりぎりの距離に撒いた。

「こっからは我慢比べだ。次の手も考えておかないとな。おれたちがない知恵を絞っている間に,外で応援を読んでいるかも知れない」

 そんな心配は杞憂に終わり,すぐに動きがあった。ただ,シナリオはもう一つの悪い方が証明された。

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