異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

人が支配される街⑫~決意の刃~



 短い詠唱の後,今度は槍を手に取った。近づきすぎず,相手の様子を伺いながらけしかけるのにはちょうどいいのだろう。ロボットとジャンはにらみ合いながらお互いけん制し合っている。もちろん,ロボットの視界が何を捉えているのかは分からない。ジャンの分析によれば,両肩か別の所にモニターが付いているはずで意識はこっちに向いているかもしれない。油断は禁物だ。

「ソラ! おれが今からこいつに攻撃をする! いつものフォーメーションに持っていくから2分間は手を出すな!!」

 ロボットが体を一瞬こわばらせた。しかし,隙は感じられない。ここからどう崩すのだろう。
 そんなことよりも,かつての記憶をたどりながらパニックに陥りそうになるのを抑える。
 いつものフォーメーション? 何かいままで作戦を組みながら戦ったことがあっただろうか。戦いの場に一緒にいたとすれば,ジャックベアと戦ったことぐらいだ。特に何か打ち合わせがあったわけではないし,相手が遅く見えるほどの身体能力の覚醒があったからたまたま勝てたぐらいのことだ。まさか,また都合よくその奇跡を見せろとでも言っているのだろうか。
 とにかくロボットから目を離さないようにした。やれるだけのことはやる。それは自分の中でも誓った。ただ,奇跡を起こすように最善を尽くせというのはわけが分からない。戸惑いの中でネガティブな考えが頭の中を支配する。
 そもそも奇跡というのは起きるべくして起こるのではなく,それこそ突拍子もないタイミングで不意に起こるものだ。願っている時点でもうすでに負けているのではないか? 狙って起きる現象は間違いなく実力のなせる技だ。でも,今の自分にはそんな力は備わっていない。・・・・・・まさか,ジャンはあの力が意図的に発生するものだと信じて疑っていない? 自分にはその力が備わっている? 考えてもしょうがない。とにかくやるしかないんだ!
 さまざまな葛藤が胸の中で暴れまわった。ただ,視線はジャンとロボットのせめぎあいから離れていない。
 その時,ロボットに一瞬の隙が見えた。ジャンが突いた槍がロボットの体勢を崩した。行くなら今しかない。

「ソラ!!! 今だ!!」

 分かってる。言われる前に動いた。右手の剣を大きく振りかぶってロボットの骨盤に向けて繰り出す。その時,不気味にもロボットの顔がこちらを向いた。
 モニターは肩についている。このまま差し切ればこちらに分がある。大丈夫。そう自分に言い聞かせたのもむなしく,ロボットの目元が光った。これから攻撃が下される。それも,致命傷か命に関わるものだ。ただなんとなく,直感的に分かった。
 それでも,攻撃をやめることはしなかった。この後はジャンがきっとうまくやってくれる。頼んだよ。
 強くそう願い,剣に力を込めた。

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