異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

人が支配される街⑥~酒の香り~

「全部うまそうだな。もしかして,おれたちが知って食材は一切使ってなくて,全て人工のものだったりして」
「なんかあり得そうな気もしてきた。化学調味料とか言うレベルではないかもね」

 いろいろな想像を巡らせてはいたが,隣のお酒を飲んでいるおじさんたちのテーブルにはおいしそうなしょくざいが並べられている。

「うまそうだよな。とにかく腹が減った。頼もう」

 注文の仕方が分からず当たりを見回すと,おじさんが話しかけてきた。

「おう,初めてって感じだな。ここはいいぞう。何もかもが機械がやってくれる。人の手はいらない。気兼ねもしないし,何よりうまい。初めてならここのローストチキンは絶品だぞう。そこのボタンを押して頼むんだ」

 お酒の匂いが鼻をついた。かなり飲んでいるみたいだ。テーブルの中央にあるボタンを押すと,テーブルの真ん中に穴が出現してロボットが顔を覗かせた。



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