異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

人が支配される街③~人のいない町~

 どれくらいの間揺られていただろうか,気付いた頃にはあたりはすっかり暗くなっていた。

「おい,よく寝られるな。着いたぞ」

 親切そうな商人も,さすがに長旅で疲れが顔に表れている。それでも表情を柔らかくして見送ってくれた。

「お疲れさんだったな。わしは少し取引先の所へ顔を出してから休むことにする。荷台から降りたらビックリするぞ。目の前に大きな建物が見えるから,それが待ちで一番大きな宿舎だ。そこに泊まるといい」

 礼を言って荷台から降りた。荷物を載せた馬車はゆっくりと走り去っていくのを見送りながら,そこで見た光景に思わず目をむいた。赤煉瓦の建物は何かを作っている工場だろうか。ガラス張りになっているところはテラス席のようにしてテーブルが並べられているからレストランが併設されているのかも知れない。暗くてあまり見通しは良くないが,建物全てが近未来のようで,ロボットのようなものが何かを運んだり,低空を滑空しているものもある。

「すごいな。噂には聞いていたけど・・・・・・。どういう仕組みで動いているんだ?」
「分からないけど,作った人は相当頭がいいんだろうね。・・・・・・あれ,そういえばジャン,この町には人影がないね。みんな家の中かな・・・・・・。」
「言われてみたらそうだな。とにかく,今日はもう休もう。おっちゃんが言ってた宿舎はあっちだな」

 あまりにも先進的な町のものに目を奪われながら,二人で宿舎への道のりを進んだ。




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