異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

初めての冒険㉓~これからのこと~

「いや~キレイな人だったな~。あれは現実だよな? ソラも見ただろ?」
「うん,見たよ。まるで同じ空間に存在していなかったみたいに放置されていたけど」

 打ち身で傷んだ身体をさすりながらジャンを睨みつけた。ジャンは,わりいわりい,と言いながら身体についた砂埃を払いながら,不意に神妙な顔になった。

「それより,あの時にいた付き人,どこかで見たことがあるんだよな~。あのパーマみたいな顔をしたやつ」
「ふーん。アトラス様にしか目がいっていないのかと思ったけど,他のことも目には一応入っていたんだね」
「なんだよ,その言い分は。あー,さてはふてくされているな? 大丈夫,おれが一番愛しているのはソラちゃんですよ~ん」
「気持ち悪いからやめろって。それより,チチカカは連れていかれたね。その後どうなるんだろう」
「それなんだよな。実際,アトラス教団に狂信して人が変わったように人格が変わったって問題になる人よりも,治療で院内に連れていかれた人の行方が分からなくなった事例の方が圧倒的に多い。ただ,アトラス様を見ていると,とても悪いことをするような人には見えないんだよな~。今日で印象が180度変わっちまった」

 真面目な顔をしたと思ったらまた鼻の下が伸びてきた。今日はもう休もう。いろいろなことが一度にありすぎた。ミュウを肩に乗せながらジャンを見た。

「それで,これからどうする?」
「実はな・・・・・・,この前の旅で寄れなかった気になるところがあってな。ここ数年で街の発展と軍事力が著しく発展しているって噂なんだけど,どうにも匂うんだよな」
「そこ,ここからどれくらいなの?」
「おそらく,普通に行けば2,3日はかかるだろうな。ただ,人を運べる馬車が見つかれば話は違うんだが・・・・・・」

 そこまで言うと,ミュウがジャンの方を見ていった。

「馬車,この森抜けたら,走ってる」

 二人でミュウを見る。かわいらしい声で放たれたその言葉は,非常に喜ばしい内容だった。
 嘘だったら食っちまうからな,とジャンは笑いながら呟いて,出口へと歩き始めた。ミュウは肩の上で震えている。

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