異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

初めての冒険⑲~金髪の美女~


 満足に身動きの取れないチチカカの前に立って,ジャンは温もりのない目で見降ろした。

「おれたちは争う気はなかった。でも,お前はおれたちの命を本気で獲りに来た。生かしておけばどんな報復があるか分からないからな。すまねえが,おれは手を汚してでも自分と,大切な人を守るために手を下す」

 チチカカは覚悟を決めているのか,それとも,人をたくさん殺してきた人は肝が据わってくるものなのか,抵抗することなくジャンの視線を受け止めている。
 これから人が死ぬ。その場に立ち会うのは初めてだ。チチカカが悪いのかと言えば,初めに命を奪いに来たという点ではそうなのだが,実際にこちらは誰も被害を受けていない。見知らぬ男はおそらくあの猛獣にやられたのだろうが,チチカカを成敗する権利が自分たちにあるのだろうか。そのことについてはいつまでも分からないし,答えがあるとも思えない。ただ,ジャンが言ったように,自分たちの命が再び危険にさらされる可能性があるのならそのリスクを消しておくのは現実的な考えである気もする。
 頭ではいろいろと考えるが,これから起こることを直視できない。
 そう思った時,辺りが一瞬光で包まれた。前を見ると,金色の髪と瞳をした長身の美女が従者を連れて現れた。

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