異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

初めての冒険⑯~あまちゃん~


 地面にたたきつけられた衝撃でむせた。呼吸が苦しい。最後に,この星を包む広大な青空を眺めたい。力を振り絞って仰向けになろうとしている最中に,そういえばここから空は見えないのだと気付いた。
 死は唐突にやって来る。しかも無慈悲に,容赦なく。前触れがあればどれだけいいだろうか。死ぬ前にやり残したことはできるし,大切な人に想いを伝えることもできる。残される側には辛いものがあるかもしれないが,死にゆくものは心置きなく死ねる。自分がいなくなったら,この世界はどうなるのだろうか。きっと,何事もなく日が昇っては沈み,ぐるぐると飽きることなく回り続けるはずだ。
 森におおわれている空間を眺めながらおかしなことに気付いた。


あれ・・・・・・。槍が,ささってない?

 咳き込んでいた肺が楽になると,身体に具合の悪いところはいっさいない。ただ地面に落下した衝撃があっただけのようだ。
 危機一髪で相手の攻撃を回避した,そう思った直後に自分の考えの甘さにはらわたが煮えくり返る。
 目の前には腕に槍が刺さったジャンが血を垂らしながら立ち尽くしていた。

「あまちゃんどもが。お前たち,いつか意味もなく共倒れするわね」

そう言ってチチカカは最後の気力が尽きたかのようにうつぶせで地面に倒れた。

「異世界になったこの世界を取り戻す」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く