異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

初めての冒険⑪~まずは弱者から~

 何だったんだ,今のは。
 自分の左手から放たれたエネルギーの塊のようなものが,ジャンを狙うオオカミの一匹に命中した。そのことに一瞬他の狼が混乱し,動きが止まった。その隙にジャンが斧を一振りすると,十数頭の狼の首を刈り落とした。
 強い。ジャンは強すぎる。一瞬にしてオオカミの闘志を奪い去った。ほとんどの狼はこの場から立ち去って行った。かろうじて残っているものも震えて戦うどころではない。

「この状況を作ったのは,間違いなくソラだ。やればできるじゃねえか」

斧を肩に抱えてこちらを向いてジャンは言った。ジャンの圧倒的な戦闘力が戦況を変えたのはさすがに分かる。それにしても,自分の左腕から出たのは一体・・・・・・。

「気功砲。誰にだって出せるんじゃねえぞ。もちろんおれも出せるけど,何だって役割分担♪」

ジャンが嬉しそうに言った。赤髪の男が獣から降りてこちらへ向かってくる。

「厄介なことをしてくれたな。本気で行かせてもらうぞ」

獣とチチカカは二手に分かれるようだ。

「獣はソラ,お前に任せるぞ」

ジャンがそう言い終わらぬうちにチチカカがこちらに駆けてきた。

「悪いね。まずは弱者から。これ,勝利の大原則ね」

獣は大きく跳ねてジャンの方へと向かった。もうチチカカは自分の目の前にいる。やらないと。右手にある剣を前に掲げた。

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