異世界になったこの世界を取り戻す
初めての冒険⑨~殺るか,殺られるか~
大きなたてがみはまるでライオンのようだが,サイズはそれよりも一回り大きく,目は猫のようにするどい。毛皮で包まれた身体は馬の身体を彷彿とさせるように筋肉隆々としている。
「さあ,どっちから食べちゃおうかしら。小さい坊やから頂こうかしら。おいしそうな銀髪は最後にとっておきましょう」
くちびるの下にあるほくろを撫でながら赤髪の男はこちらを見た。ジャンが一歩前に歩み出て威圧するよなそぶりを見せた。冷たい空気が漂う。
「何を言ってるんだか分からないが,おれたちは傷つけあうつもりは無い。できれば穏便に済ませたいんだが」
「人様の縄張りにずかずかと上がり込んできて何を言っているの? 相手のテリトリーに侵入して,顔を突き合わせた。行きつく先は,命の取り合いしかないでしょ♡」
赤髪の男は心底嬉しそうにして獣の打綱を取って合図した。同時に獣は戦闘態勢に入る。
「申し遅れたわ。我が名はチチカカ。名前を聞いたってしょうがないだろうけど,冥途の土産にしてちょうだい」
「やるしかないんだな。無益な殺生はする気はないが,手加減しないからな」
目の前で繰り広げられる二人のやりとりを人ごとのように見ることしかできなかった。いや,自分事とは分かっているのだが,むしろそのことに恐怖を感じて何も出来ない。身体が動かない。これからって時に,いつもそうだ。
ジャンは横目でこっちを見た。
「いいよ。そうやってろ。そうして相手に主導権をやって,死を選べ。・・・・・・でもな、おれがいる間はお前は絶対に死なせない。たとえこの命に代えてもな。だから,おれが死んでまで守られた命なんだからそのあとは必死こいて生きろや」
今すぐ走って逃げろ,そう言って短刀を斧のような形をした大きな太刀を出した。ジャンが本気で戦うときに使う武器だ。手元が軽く光ったかと思うと,次の瞬間には武器が握られている。バオウが言っていたのはこの現象か。
「無言詠唱にその斧のような武器。加えてその綺麗に短く刈ってある銀髪。あなた,ジャンね。リストに載っているわ。音もなく敵の首を刈り取る。注意しなくちゃね」
「ご存知とは。そう,おれがジャンだ。あんたおそらくアトラス教団の人間だな。いいうわさは聞かないぜ。おれが処分してやる。しょんべんたれを目の前にしてさっきはあんなことを言ったが,子ネコちゃんとオカマが相手なんて何てことない」
「あら~,失礼しちゃうわ。興奮してきたわ。あなた,多勢に無勢って言葉知ってる?」
気付けば,辺りはオオカミのような生き物に包囲されている。たてがみがチチカカの乗っている獣と同じだ。あの子どもだろうか。きっと戦闘能力も高いに違いない。ジャンがすり足でこちらに寄ってくる。目は相手を視界にとらえたままだ。
「ソラ,状況が変わった。今から範囲攻撃の詠唱をする。一瞬,相手も気を取られるだろう。その隙にできるだけ遠くに逃げろ。時間はできるだけ稼ぐ」
ジャンが耳打ちした。何を言っているのか理解するのに時間がかかった。自分をおとりにして逃がそうとしているのだ。足の震えが止まった。気付けばジャンの胸ぐらをつかんでいた。
「何だよ!! いつまでも守られる存在じゃない! こいつらぶちのめして,一緒に出よう!」
覚悟は決まっていた。ジャンを睨みつけて言うと,目の前の顔は笑っていた。
「そうか。じゃあ,一緒にやろう。漏らすなよ」
「さあ,どっちから食べちゃおうかしら。小さい坊やから頂こうかしら。おいしそうな銀髪は最後にとっておきましょう」
くちびるの下にあるほくろを撫でながら赤髪の男はこちらを見た。ジャンが一歩前に歩み出て威圧するよなそぶりを見せた。冷たい空気が漂う。
「何を言ってるんだか分からないが,おれたちは傷つけあうつもりは無い。できれば穏便に済ませたいんだが」
「人様の縄張りにずかずかと上がり込んできて何を言っているの? 相手のテリトリーに侵入して,顔を突き合わせた。行きつく先は,命の取り合いしかないでしょ♡」
赤髪の男は心底嬉しそうにして獣の打綱を取って合図した。同時に獣は戦闘態勢に入る。
「申し遅れたわ。我が名はチチカカ。名前を聞いたってしょうがないだろうけど,冥途の土産にしてちょうだい」
「やるしかないんだな。無益な殺生はする気はないが,手加減しないからな」
目の前で繰り広げられる二人のやりとりを人ごとのように見ることしかできなかった。いや,自分事とは分かっているのだが,むしろそのことに恐怖を感じて何も出来ない。身体が動かない。これからって時に,いつもそうだ。
ジャンは横目でこっちを見た。
「いいよ。そうやってろ。そうして相手に主導権をやって,死を選べ。・・・・・・でもな、おれがいる間はお前は絶対に死なせない。たとえこの命に代えてもな。だから,おれが死んでまで守られた命なんだからそのあとは必死こいて生きろや」
今すぐ走って逃げろ,そう言って短刀を斧のような形をした大きな太刀を出した。ジャンが本気で戦うときに使う武器だ。手元が軽く光ったかと思うと,次の瞬間には武器が握られている。バオウが言っていたのはこの現象か。
「無言詠唱にその斧のような武器。加えてその綺麗に短く刈ってある銀髪。あなた,ジャンね。リストに載っているわ。音もなく敵の首を刈り取る。注意しなくちゃね」
「ご存知とは。そう,おれがジャンだ。あんたおそらくアトラス教団の人間だな。いいうわさは聞かないぜ。おれが処分してやる。しょんべんたれを目の前にしてさっきはあんなことを言ったが,子ネコちゃんとオカマが相手なんて何てことない」
「あら~,失礼しちゃうわ。興奮してきたわ。あなた,多勢に無勢って言葉知ってる?」
気付けば,辺りはオオカミのような生き物に包囲されている。たてがみがチチカカの乗っている獣と同じだ。あの子どもだろうか。きっと戦闘能力も高いに違いない。ジャンがすり足でこちらに寄ってくる。目は相手を視界にとらえたままだ。
「ソラ,状況が変わった。今から範囲攻撃の詠唱をする。一瞬,相手も気を取られるだろう。その隙にできるだけ遠くに逃げろ。時間はできるだけ稼ぐ」
ジャンが耳打ちした。何を言っているのか理解するのに時間がかかった。自分をおとりにして逃がそうとしているのだ。足の震えが止まった。気付けばジャンの胸ぐらをつかんでいた。
「何だよ!! いつまでも守られる存在じゃない! こいつらぶちのめして,一緒に出よう!」
覚悟は決まっていた。ジャンを睨みつけて言うと,目の前の顔は笑っていた。
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