異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

初めての冒険⑧~血沸き肉躍る~


 男のもとへ寄ると肩を上下させて息も絶え絶えになっていた。たぶん・・・・・・もう助からないだろう。出欠の量と損傷が激しすぎる。

「お前たち・・・・・・,さっきのやつらだな。早く・・・・・・・にげ,ろ」
「いいから,・・・・・・もうしゃべるな。楽にしてくれ」
「いや,・・・・・・今ここに,バケモノが・・・・・・い,た。戻ってくる前に,にげろ・・・・・・」

ジャンの腕の中で,男は何かが抜け落ちたように体を脱力して,眠りに入ったように見えた。あまりにも唐突で、安らかな死だった。今,人が死んだのだとはっきりと認識するのに時間がかかった。
 思わず地面に伏せた。唾液が出てきた。いや、唾液しか出てこない。人が死んだ。その事を理解したとたん,吐き気が襲った。膝が震えている。立てない。
 悪夢は唐突にやって来る。そして,その中では立て続けに悪いことが連鎖的に反応して,容赦なく襲い掛かってくる。この森はまるで悪夢の中だろうか。後ろから声がした。

「あら~。餌を置いていたわけでもないのに,飛んで火にいる夏の虫ってやつ? しかも若くていきのよさそうな虫だわ~。興奮しちゃう。血沸き肉躍る世界ね♡」

 背後には褐色の髪をした二枚目の中性的な男が,牙をむいた獣にまたがって笑っていた。


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